Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第362号(2015.09.05発行)

第362号(2015.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆「目にはもみじ 山もずのはれ とろ鰹」。江戸期の俳人、山口素堂作の「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」をもじった駄作である。太平洋に広く分布するカツオは春に北上し、秋になると南下する。先の句で挙げたモズも秋に南下するものがある。紅葉が美しく、その山々の上に澄んだ青空が広がるころ、脂の乗った戻り鰹の季節となる。日本には薩摩や土佐の初鰹を賞味する向きと、三陸のトロ鰹を好む向きがある。そのカツオの回遊に異変が起こっている。茨城大学人文学部の二平 章氏によると、日本近海にいくつかある回遊ルートのいずれにおいてもカツオ不漁の傾向が著しいという。その大きな原因が南方海域における大型まき網船による乱獲にあることはまちがいない。漁船の大型化と設備の高度化、人工浮き漁礁(パヤオ)の利用が大きく関わっている。高度回遊性魚類の資源管理に向けた取り組みはマグロ類だけにかぎらない。
◆カツオを原料とするカツオ節は日本の和食文化をささえる重要な食材である。国内随一の生産を誇る鹿児島・枕崎でも、サバやソーダガツオを用いた節が製造されており、後者の原料は南洋、とくにインドネシア産のものが多い。日本の食文化を守ることは、南方のカツオ類の資源管理と切っても切れない関係にあることをふまえ、今後、日本の果たすべき重要な役割に期待したい。
◆枕崎のある薩摩半島から鹿児島(錦江)湾を挟んだ大隅半島に鹿屋市がある。ここに拠点をもつ鹿屋体育大学の海洋スポーツセンターでは、さまざまな海洋スポーツの教育・研究・社会貢献などの多面的な活動が展開されている。同大学の榮樂洋光氏が指摘するように、次世代における海洋教育だけでなく生涯学習の場としての役割を担うミッションは頼もしいかぎりだ。日本の体育系の大学では陸上スポーツが主流となっているが、海洋スポーツの普及・啓発活動の拠点として今後の活躍を期待したい。
◆海洋スポーツだけにかぎらず、水産業、海運業における次世代の育成が叫ばれるなか、分野を超えた総合的な人材育成を策定することは国の使命でもある。教育だから文部科学省、船員だから国土交通省、漁船員だから農林水産省と縦割りを排した取り組みの大綱をいまからでも策定する必要がありはしないか。
◆この点で海の環境学習はいずれの省庁が管轄するのか。上から目線でなく、子どもを対象としながら地道な活動を支える人びとがいることを忘れずにいたい。ガタガールという風変わりな肩書きをもつ松重摩耶氏が主に瀬戸内海の干潟や海浜で展開している活動は、先ほどの例に即して言えば、文部科学省と環境省をまたぐ性格をもつ。本来、海との人間のかかわりは多面的であり、現場主義的な発想が欠かせない。泥まみれになったガタガールのすがすがしさに惚れますね。(秋道)

第362号(2015.09.05発行)のその他の記事

ページトップ