Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第360号(2015.08.05発行)

第360号(2015.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆人工衛星が地球上を飛びかう今日であっても、世界の物流は海上輸送に大きく依存している。その役割を担うのが巨大コンテナ船やタンカーである。2013年度の港湾別コンテナ取扱量(上位10位までの合計)は20,366万TEU(20フィートコンテナ換算)であり、1980年度の17倍以上に増加している。しかも、かつて4位の神戸(大阪は39位)は2013年度には52位(大阪は57位)と凋落し、中国、韓国の港湾が軒並み上位を占めている。東アジアにおける海上輸送を神戸・大阪を統合した阪神港を中核とする戦略的な取り組みとして進めておられるのが阪神国際港湾株式会社である。同社常務執行役員の中西理香子氏は、北米・欧州向けの基幹航路整備が最重要の課題であると力説されている。1983年発売の『釜山港へ帰れ』(唄・渥美二郎)が一世を風靡したが、今後「阪神港へ帰れ」の強いメッセージをふまえた海洋輸送の国際競争力強化が一丸となって進められるよう期待したい。
◆商業捕鯨のモラトリアムが採択された1982年より少し前の1980年当時、南極海におけるオゾン層濃度は200ドブソン単位(1気圧、0℃の地表面で厚さ2mmに相当)を下回ることはなかったが、80年代中葉にオゾンホールが確認され、現在も100ドブソン単位前後となっている。温暖化による地球環境の劣化が指摘されるなか、南極海全体でも氷床の融解、氷河から海に出た棚氷の大規模な崩壊が報告されている。南極海における気候変動は偏西風の南下現象と関係するもので、その誘因がオゾンホールによることが指摘されている。水産総合研究センター国際水産資源研究所の永延幹男氏は、氷域生態系におけるナンキョクオキアミ資源の変動傾向に注目し、オゾンホールとの関係を突き止め、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も気候変動と南極海生態系の変化の連関を示す好例として取り上げている。
◆食料、飼料、バイオマス資源として注目されるナンキョクオキアミ資源は、商業捕鯨モラトリアム後、鯨類の捕食圧増大による減少が指摘されている。しかも、海洋汚染防止に関するMARPOL条約により南極海における重油利用が制限され、オキアミの市場価格は高騰傾向にある。南極海は今後ともホットスポットとなることは間違いない。
◆マグロ資源の減少と絶滅危惧が叫ばれるなかで、完全養殖が近畿大学により進められ、「近大マグロ」として注目されている。長い養殖研究の賜物であり、日本や世界の水産養殖業に大きなインパクトとなるであろう。出荷されたマグロ1尾ずつに「卒業証書」が授与され、日本の食卓を豊かにする社会貢献を果たしている。コンテナや石油タンカーによる海上輸送、石油消費による温暖化、南極海の異常、水産資源と環境保全などの諸問題をつなぐ海洋のダイナミズムについての話題を盛夏にお届けできたこととおもうが、いかがだろうか。(秋道)

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