第350号(2015.03.05 発行)

福島復興・浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業~実証研究事業の取り組みと今後の課題~

[KEYWORDS]浮体式洋上風力発電/福島復興/排他的経済水域(EEZ)
丸紅(株)国内電力プロジェクト部◆福田知史

浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業では、世界最大級となる浮体式洋上風力発電設備を設置し、実証研究を実施している。
本事業を通じて明らかになった課題、経済性の追及や漁業との共存、運転維持管理手法の確立などに取り組みながら、浮体式洋上風力発電の事業化と発展を目指している。


はじめに

2011年の東日本大震災と福島原子力発電所の事故を受け、再生可能エネルギー導入の機運が高まる中で、同年12月、経済産業省より「浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業」の公募が発表された。洋上風力発電は、海上の強い風を利用でき環境負荷が少ないことから注目されているが、中でも浮体式洋上風力発電は、浅い海域に設置する着床式と異なり深い海域に設置可能であることから、日本の海洋地形に適した発電形式であるとして導入が期待されている。本実証研究事業は、世界的にも未だ事業化されていない浮体式洋上風力発電(ウィンドファーム)の導入に向けて、福島県沖にて浮体式洋上風力発電システムの実証研究を実施することにより、その安全性・信頼性・経済性を明らかにするとともに、産業の集積・雇用の創出という形で福島の復興に寄与することを目的とするものである。
当社を含む10社1大学からなるコンソーシアム※が当該事業に採択され、当社はプロジェクトインテグレータとして全体計画の策定に加え、事前協議・許認可取得、事業性評価、運転維持管理手法の開発、航行安全性調査および漁業との共存などの研究開発を進めている。本稿では、本実証研究事業における当社およびコンソーシアムの取り組みと見えてきた課題について紹介する。

実証研究事業の概要

■7MW風車搭載浮体「ふくしま新風」の曳航作業(長崎港~小名浜港)

本実証研究事業は第1期と第2期に分かれており、第1期では、世界初となる浮体式洋上変電所と、2MW風車を搭載した浮体式洋上風力発電設備を建設し、実証研究を行う。要素技術の開発を行うと共に、気象・海象や浮体の動揺など、浮体式洋上風力発電設備の設計に必要な基礎データを取得することを目的とする。第2期では、今後の事業化を見据えて、世界最大級の7MW級風車を搭載した浮体式洋上風力発電設備を建設し、大型風車搭載の浮体式洋上風力発電設備による大規模洋上ウィンドファームの事業性を検証する。
第1期事業については、2013年10月にすべての海洋工事を完了し、同年12月より東北電力(株)に売電を開始すると共に、各種データの継続的な観測・解析を行っている。今日に至るまで、大型台風などの自然災害に見舞われたが、順調に運転を行っており、浮体設備の技術的信頼性・安全性について確認することができた。現在は、第2期実証研究として、世界最大規模の7MW級風車2基を実証海域に設置すべく、設備の建造や海洋工事の準備を進めている。第1期で設置した2MW風車がブレード長40m、ハブ高さ66mであるのに対し、7MW風車はおおよそ2倍の大きさとなっており、この大型風車の浮体への搭載工事や、その風車を搭載した浮体の曳航および設置係留工事は、第2期事業の成否を握る鍵となる。

日本の洋上風力における課題

■専用アクセス船とアクセス補助装置による浮体への乗り移り

本実証研究事業を通じ、わが国における浮体式洋上風力発電の事業化ならびに普及に向けては、解決すべき課題が数多くあることが明らかになってきた。
まずは、経済性である。今後事業化に向けては、発電設備の建造や施工の経済性をより高めていくことが必須となる。浮体の小型化、軽量化など、さらなる開発、進化により浮体建造コストを低減させることが求められる。また、本実証事業では、実証海域から離れた場所にある造船会社のドックにおいて浮体を建造し、ドックから実証海域あるいは最寄りの港湾まで曳航したが、コスト低減のためには設置海域近辺の港湾での建造が望ましい。これらを実現していくためには、洋上風力施設専用港の整備が必要となるため、民間のみならず行政による港湾計画の改訂や制度設計が望まれる。
また、洋上風力発電において最も重要な課題の一つが、地元漁業関係者との協調である。本実証研究事業においては、現場海域を主な漁場とする漁業関係者と1年間にわたり協議を重ね、実証研究の実施について同意を頂いた。現在は、漁業との共存を図るべく、浮体設備の魚礁効果を活かした新たな漁具・漁法の研究開発や、洋上で観測したデータのリアルタイム配信など、地元漁業関係者にメリットを供与できるような取り組みを行っており、地元漁業関係者の全面的な協力の元、試行錯誤を繰り返しているところである。漁業関係者の理解を得るとともに、わが国の浮体式洋上風力発電開発における漁業協調のモデルケースとなることを目指している。
洋上風力発電の運転維持管理において、最重要課題は発電設備へのアクセスである。アクセス性は風力発電設備のメンテナンス性や風車稼働率、設備の保全状態に大きく影響する。稼働率確保のためには、発電設備までの移動時間を短縮すること、船から浮体への乗り移りを容易にすることが必要である。これらを踏まえ、発電設備の運転開始に伴い、欧州の着床式洋上ウィンドファームで一般的に用いられている双胴アクセス船をオランダより調達した。さらに、厳しい海況下においても浮体への接舷を可能とすべく、2014年7月より同船に「アクセス補助装置」と呼ばれる機器を搭載し、波高が高い場合における浮体へのアクセスの確度と安全性の向上を実現した。今後は、現地の海象およびアクセス船の運航データを分析し、アクセス船および補助装置の有用性を検証するとともに、大規模ウィンドファームを形成する際の効率的な運用についても検討を進めていく。

おわりに

日本は世界6番目の排他的経済水域を有しており、浮体式洋上風力発電は最もポテンシャルの高い再生可能エネルギーの一つである。これまでの取り組みを経て、国内の浮体式洋上風力発電の発展のためには解決すべき課題が山積していることが明らかになったが、打開すべく課題に取り組んで行きたい。本実証研究事業が洋上風力発電と関連産業の発展、そして福島復興に寄与することを強く願っている。(了)

※1 福島洋上風力コンソーシアム http://www.fukushima-forward.jp/index.html
メンバー:丸紅株式会社(プロジェクトインテグレータ)、東京大学(テクニカルアドバイザー)、三菱商事株式会社、三菱重工業株式会社、ジャパンマリンユナイテッド株式会社、三井造船株式会社、新日鐵住金株式会社、株式会社日立製作所、古河電気工業株式会社、清水建設株式会社および、みずほ情報総研株式会社

ページトップ