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オーシャンニューズレター

第308号(2013.06.05発行)

第308号(2013.06.05 発行)

わが国の洋上風力エネルギー開発

[KEYWORDS]洋上風力エネルギー/浮体式風車/資源量
東京大学大学院新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻教授◆鈴木英之

わが国における再生可能エネルギー開発の中で、資源量とコスト低減の可能性から注目を集めている洋上風力エネルギーについて、推定される資源量と想定される産業規模、世界的に展開されている浮体式風車の開発競争について紹介する。

洋上風力エネルギーの可能性

再生可能エネルギーの開発は、地球温暖化問題および脱原子力エネルギーの観点からヨーロッパにおいて取り組まれてきたが、2000年頃からの石油価格の高騰を背景として世界的に加速し始めた。わが国ではエネルギー自給率向上の観点から永らく原子力エネルギー開発が推進されてきたが、東日本大震災に起因する福島原子力発電所の事故により、エネルギー政策は見直しを迫られており、再生可能エネルギー利用の期待が高まっている。中でも、発電コストが比較的低く、エネルギー賦存量も大きい風力発電には注目が集まっている。
わが国は人口に比べて国土面積が小さく、その上、国土の約70%が山地であり、生産活動や居住などの土地利用が平地に集中しているという特徴を有している。このため、陸上の風力発電のかなりの部分が丘陵地に立地するなど、風況や設置面積などの点で大規模に風車を展開するのは容易ではない。一方、洋上に目を向けると海岸線は長く、排他的経済水域も世界第6位の面積を有しており、洋上風力エネルギーの資源量は膨大である。洋上では、平均風速は比較的高く、乱れも小さいなど風況は良好である。2000年頃からは、わが国の地理的特性に合った洋上風車として浮体式洋上風車の研究が開始されている。
技術と経済性の観点から当面開発の対象と考えられている沿岸域に限っても、わが国の電力供給において、大きな部分を占める潜在能力を持っていることが明らかになっており、地域社会と共存でき、経済性に優れた形で開発できれば、将来にわたってその恩恵は計り知れない。

資源量と想定される産業規模

■洋上風力エネルギーの取得可能資源量

洋上風力エネルギーの資源量については、過去様々な観点から推定が行われている。衛星による観測やシミュレーションなどから、広域の年平均風速データを求め、一定風速以上の海域について、離岸距離、水深、風車間の干渉などの条件に加えて、漁業や自然公園など社会的条件を加味して、設置できる風車の基数を算定して、発電設備容量、年間発電電力量の推定が行なわれている。
例えば、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により実施された評価では、水深0~200m、離岸距離0~30kmで、年平均風速7m/s以上の海域に5MW風車を2基/km2の密度で設置した場合の総発電設備容量は1,200GWとなっている。わが国の総発電設備容量240GWに比べてその大きさがわかる。また、著者らによる資源量推定では、日本周辺海域の平均風速6m/s以上の海域について、海域面積を水深ごとに算定し、水深200m以浅の海域について、風車設置密度を3.47MW/km2で配置した場合の発電設備容量は570GWとなっている。
わが国における洋上風力エネルギー産業の規模を概算してみる。民主党政権時代にエネルギー・環境会議において出された再生可能エネルギーの導入目標3,000億kWhの10%を洋上風力エネルギーで賄うとした場合、電力の売り上げ規模は概算で年間6,000億円である。設備の観点からみると、設備利用率を40%とすると、5MW風車にして1,712基が必要となる。風車の稼働寿命を20年とすると毎年86基を新たに設置する必要があり、仮に風車の設置も含めた初期コストを40万円/kWとすると、年間1,720億円程度の投資が継続的に必要となる。

浮体式風車の開発をめぐる世界的な開発競争

■ノルウェーにおいて進められる浮体式風車Hywindの実証実験。©Satoil

■ポルトガル沖で実証実験されるWindFloat。http://www.principlepowerinc.com

世界の風力発電の累積導入量は、過去十年間着実に伸びており、着底式洋上風車が多数設置されている。世界全体の風車の総発電設備容量に占める洋上風車の割合はわずか1.5%であるが、そのほぼすべてがヨーロッパに設置されている。この分野におけるヨーロッパのリードは盤石なものがある。特に英国は積極的で、2020年までに洋上風力発電の設備容量を40GWに引き上げるという大きな目標を掲げている。英国の計画では、最も岸から遠いところで約300kmにも達するが、それでも水深は40m程度である。
一方、浮体式洋上風車は開発競争の中にある。岸から離れるにしたがって急速に水深を増すわが国や、同様の海域を有する米国では、ヨーロッパに比べて浮体式洋上風車に対する関心が高い。実証実験に関してはBlue H社が2007年12月に南イタリアの水深108mの海域に、80kWの風車を搭載した緊張係留型浮体式洋上風車を設置したのが世界初である。メガワットクラスの実証実験に関しては、本格的な浮体式風車であるHywindがノルウェーにおいて、Statoil社により進められている。浮体形式はスパー型であり、2.3MW風車を喫水100m、排水体積5,300m3のスパー型浮体の上に搭載したものが北海に設置され、2009年から実証実験を開始している。最初の1年間の稼動結果として、40%を超える設備利用率が報告されている。2011年は特に風の強い年であり、設備利用率は50%近い値を記録している。波高19m、風速40m/sの荒天も経験したが、風車の機能に特に問題は無く、また大きな故障も無く稼働しているとのことである。さらに、これに続いて、2011年11月には、Principal Power社により2.0MW風車を搭載したセミサブ型浮体式風車WindFloatがポルトガル沖に設置され、実証実験に入っている。一方、我が国においても、環境省が長崎県五島列島で浮体式風車の実証実験を開始しており、2013年夏に2.0MWのスパー型浮体式風車を設置する予定である。経済産業省は、福島県沖で合計出力16.0MWのウインドファームの実証実験を進めている。世界初の浮体式洋上風車によるウインドファームとして世界的に注目を集めている。
浮体式洋上風車の開発にあたっては、風車-浮体-係留系の連成応答が本質的に重要であり、解析プログラムの開発が国際競争の下で行われている。また、浮体式風車の実用化に当たっては、安全基準や設計ガイドラインの整備が必要であり、各国において作成が進められており、これを背景としてIEC(国際電気標準会議)において国際規格作りが開始されている。IECの国際規格作りの場では、浮体式風車の実現を目指して研究や実証実験を計画・実施しつつある、日本、米国、ドイツ、ノルウェーが大きな発言力をもって意見を戦わせている。(了)

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