Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第256号(2011.04.05発行)

第256号(2011.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆3月11日に巨大津波が東北から関東の太平洋岸を襲った。この東北関東大震災に追い打ちをかけるかのように福島第一原子力発電所の事故が発生し、今、わが国は第二次大戦以来の困難に遭遇している。この原因となった大地震の先例は869年(貞観11年)にあるという。まさに1000年スケールの地殻変動である。これほどのものにはいかによく準備された防災施設もほとんど無力であった。
◆災害に遭われた方々に衷心よりお見舞いとお悔やみを申し上げたい。また被災地域の一刻も早い復興を目指して、国民全体が力を合わせて頑張ってゆかねばと思う。60数年前に焦土と化した国土から立ち上がることができたのである。物心両面で、もっと素晴らしい国を生みだすことが可能であると信じている。世界の国々から届く、被災された方々の高い精神性を賞讃するメッセージはこれを予感したものに違いない。
◆ところで今回の原子力発電所の事故は地震によるものというよりは津波によるものであるが、世界のエネルギー問題への対応策の方向性を大きく変えるのではないだろうか。一部では火力発電所への回帰が起きるであろう。しかし全体的には再生可能エネルギーへのシフトが加速してゆくと思う。わが国において原子力エネルギーの今後については国論を二分する問題に発展しそうである。一方で省エネルギーへの動きも活発化するであろう。今回の国難を人々の良き生と持続可能な社会の形成に向けて生かしてゆきたいものだ。
◆さて今号では、遠藤大哉氏、道田 豊氏が人気上昇中のオープンウォータースイミングを安全に行うためには流況などの海洋情報を活用する必要があること、またそれを可能にするには海洋学界とマリンスポーツ界の連携の仕組みが重要であることを論じている。次いで大塚英治氏は積丹町でウニ資源を磯焼けから守るために漁業者とダイバーが協働することから始まった漁業とマリンレジャーの共生が、より広い意味で海辺の豊かさを守る里海づくりに効果的であることを示している。田口理恵氏は食べる対象である魚を供養し、海の恵みに感謝する、わが国の生命観について調査結果に基づき論考している。生きとし生けるものへの想いは輪廻転生の考えに繋がるものである。さらに広く眺めるならば生命圏と地球圏の46億年の共進化の歴史は、物質循環が担ってきた。私たちの人生さえもこの大きな循環系から見ればささやかな一こまに過ぎないのである。(山形)

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