Ocean Newsletter
第243号(2010.09.20発行)
- 阿嘉島臨海研究所所長◆大森 信
- 沖縄県竹富町企画財政課 主事◆小濵 啓由(けいゆう)
- (財)日本水路協会審議役◆小田巻 実
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌
編集後記
ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌◆5、6年前に沖縄の八重山諸島にある石西礁湖で環境省の調査に参加したことがある。沖縄の本土復帰前後から現在にいたる礁湖の環境にどのような変化が起こったのか。地元の海人(ウミンチュ)と青いサンゴ礁の海をまわった。海水温の上昇によるサンゴの白化は最近のことであったが、それよりも復帰後から海と陸に展開した開発の影響は明らかであった。あるウミンチュはこう語った。サンゴ礁のきれいな熱帯の魚をみせるために、観光業者は競って魚の多い場所へ客を案内する。だが、そこはわれわれの漁場でもある。以前はそうでもなかったが、魚が逃げてしまって獲れないこともある。本当は、観光客には来てほしくない。本音ともとれる発言に、かえすことばに窮した。本誌で阿嘉島臨海研究所長の大森 信さんがいみじくも、サンゴ礁劣化の原因が観光をふくむ人間活動にあるとする指摘は重い。私もサンゴの増殖活動を八重山の現場でみたことがある。それが保全活動の「すりかえ」であったり、対処療法とする施策だけでは駄目ということだ。
◆地元、竹富町の小濵 啓由さんは、総合的な沿岸管理を目指すべきとの立場から、竹富町独自の「海洋基本計画」を策定する作業に取り組んでおられる。竹富島を含む八重山諸島が、「末端ではなく、先端」であるとする認識を示しておられる。そこには、海の世界の周縁部は中央からもっとも離れた場所であるという陸地中心の世界観を根底からくつがえす力がみなぎっている。
◆海だけではない。かつて導入されたデイゴの木は害虫により枯死する現状にある。竹富島にある130数本のデイゴを守るには、害虫駆除のために注射を打つ必要がある。その費用捻出のために東奔西走するNGOグループもある。猛暑の続いた日本周辺は太平洋高気圧にすっぽり覆われ、9月になってもその勢いは続いている。これを地球規模でのラニーニャ現象というのは簡単だが、それぞれの地域の海や森で起こっていることは地域固有の問題だ。八重山で起こっていることを他人事とするのではなく、先端部、つまりフロンティアで発生していることであると深く認識すべきなのだ。
◆e-Navigationという聞き慣れないことばを、(財)日本水路協会の小田巻 実さんの論から教わった。船相互の自動識別装置の導入は画期的というほかない。応用範囲も広く、安全・安心面で大きな一歩となることはまちがいない。もちろん、軍事面で使われる両刃の剣的な側面もある。小規模な漁船などが搭載するには、経費面でまだまだ問題もあるだろう。海難事故の発生を抑止する提案と海を守る提案は一見、関係がないように映るが、われわれと海との関係が開発と技術進歩を通じて確実に変化しつつあることを確認することができた。 (秋道)
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