Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第234号(2010.05.05発行)

第234号(2010.05.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形 俊男

◆穀雨の節気を前にして、4月17日には都心でも雪が降った。実に41 年ぶりの記録である。農作物や果樹への影響が危惧されている。232 号の後記でも触れたが、これは太平洋熱帯域の「エルニーニョもどき」現象が励起した偏西風の蛇行により、北東アジアに寒気が流入しやすくなっているためである。平成16 年や17 年の春にも同じ現象が起きて晩春に冷害をもたらした。平成17年は、その後、秋口にラニーニャ現象が発生して、年末から年始にかけて大雪となった。まだ記憶に新しい平成18 年豪雪である。地球シミュレータを用いた予測実験によれば、今年も夏ごろにラニーニャ現象が発生するようだ(http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/)。初夏の早い段階にフィリッピン付近で高気圧が強まり、東アジアの梅雨が活発化することも科学的に予測されている。今年は梅雨時の水災害にも注意したい。
◆衛星による海洋観測やスーパーコンピュータの発達、大気海洋科学の発展によって、どんな季節が次にくるのかをかなり予見できるようになってきた。昨年8月に開催された第3回世界気候会議はこうした季節予測情報のサービス体制の重要性を謳っている。半世紀前になるが、1957~58 年に初めて地球を丸ごと観測する計画が進められた。これは国際地球観測年として知られている。人類最初のスプートニク衛星はこの目的でソビエト連邦により打ち上げられたのである。南極観測もこの国際計画の一環として企画された。フォン・ノイマンが開発に力を入れた汎用コンピュータが実用化し、天気予報が始まったのもこの頃である。まさにこの時期に作家の安部公房は未来社会の姿を鋭敏に察知し、『第四間氷期』を発表している。コンピュータを用いた未来予測だけでなく、「合成生物学」の分野まで誕生した昨今、極めて示唆に富む作品である。一読をお勧めしたい。
◆今号では、まず山敷庸亮氏が河川と海洋を一体として管理することの重要性を指摘している。水のよき流動性と溶媒性、また固相、液相、気相の間を自在に行き来する性質がこの地球を生物の棲める惑星にしているといっても過言ではない。地球史を語るまでもなく、水循環の母胎は海洋にあるが、多くの水関係プログラムが陸域水循環にのみ目を奪われているのはあまりにも近視眼的であるといわねばならない。
◆藤倉克則氏は昨年6月の政府間海洋学委員会(IOC)総会において、国際海洋データ・情報交換システム(IODE)の一環として認められた海洋生物地理情報システム(OBIS)とわが国の取り組みについて解説している(227 号白山義久氏の解説参照 )。海洋生物情報は海を知り、護り、利用する上で不可欠の情報である。海洋台帳(マリンキャダストル)を構成する重要情報でもあることから、国としても、海洋現業の一環として積極的に篤志機関を支援し、データ収集、管理、広報に力を入れるべきである。
◆大林成行氏は瀬戸内海を経由する物流において重要な役割を担い、わが国の海運史のみならず、文化そのものにも彩りを与えてきた塩飽諸島の人々の活躍を紹介する。瀬戸内の島の豊かな歴史を踏まえ、未来を拓く可能性に満ちた「船の祭典2010」の成功を祈りたい。(山形)

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