◆中学生のころ、神戸港に停泊するアメリカ軍の空母を見学に行ったことがある。空母の大きさだけでなく、見上げるような大男の船員さんには仰天した。たどたどしい英語で何を話ししたかの記憶はないが、ある船員が私に太い青色ボールペンをくれたことを鮮明に覚えている。神戸港の開港は1868年。現在では北九州港、東京港とともに日本の三大旅客港となっている。港にはそれぞれ違った顔がある。神戸市長の矢田立郎さんの指摘されるとおり、神戸港と地域の人びとや子どもたちとの関わりを育む独創的な取り組みが望まれる。 ◆では日本全体で、日本人と海との関わりを深めるためにはどのような取り組みが重要か。東京大学大学院の佐藤 学さんは、とくに小中学校を対象とした海洋教育を推進する中核は教育関係者であると明言し、海洋教育の拠点形成の構想を提案されている。だが、それを耳が痛いと受け止める当事者がどれだけいるだろうか。というのも、われわれにとり日常生活で海との関わりは、食、観光、スポーツなどの面でけっして無縁ではないが、さて教育として展開するとなると、その「とっかかり」に頭を悩ませてしまうのではないだろうか。今後、海に「親しみ」、海を「知り、守り、利用する」4つの学習を進めるにせよ、私はとりわけ海を感じ、海と触れ合うことが大切とおもっている。かつて、海への貢献についての公募の審査をしていたとき、映像などのバーチャルな世界を子どもたちに見せても、五感をとおした総合的な理解とは似て非なるものであるとの議論がでた。 ◆慶應義塾大学の栗林忠男さんは、海洋基本法成立後の動きを受けた日本海洋政策研究会の設立を契機とした取り組みの進展を期待するなかで、総合とか統合の意義を提起されている。学問分野と領域の細分化をいかに克服するかの議論は今に始まったことではないが、その原点には人間が身体を通じて海と関わることがある。そのことを忘れることなく、政策や教育の取り組みを進めるべきことが大きな課題であることを確認しておきたい。海は広いな、大きいな。 (秋道)
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