Ocean Newsletter
第215号(2009.07.20発行)
神戸港における海事人材確保・育成の取り組みについて
みなと街神戸にとって「みなと」は先人たちが築いた財産であり、この貴重な財産を次世代に引き継いでいかなければならない。
しかし船舶の大型化とコンテナ荷役の進展により、港は沖合いに展開され、「みなと」と子供たちの距離が遠くなってきている。
そのため神戸市では「みなと」を身近に感じ、「みなと」を学べる副教材を作成し、これを活用することで将来の神戸を担う人材確保の取り組みを開始した。
はじめに

神戸港空撮。メリケンパークの向こうにハーバーランドの高浜旅客 ターミナルが見える。
さらに、瀬戸内海に面した神戸は、古くから貿易港として「みなと」とともに発展してきた街であり、明治時代から操業を続ける造船所、海運・港運関係企業、神戸大学海事科学部などの海事教育機関及び海事関係行政機関がバランスよく集積した都市でもあります。わが国製造業の海外移転やアジア近隣諸港の整備により、神戸港の相対的な地位は低下しているといわれているものの、「みなと」が神戸経済の基盤であることに変わりはありません。少子・高齢化を背景に将来の海事産業を担う人材の不足が懸念されており、神戸港の持続的な発展のためにも、長期的な視点にたった海事人材の取り組みが求められていました。
副教材「海とみなとが仕事の舞台 神戸港」の発行
みなと街神戸にとって「みなと」は先人たちが築いた財産であり、この貴重な財産を次世代に引き継いでいかなければなりません。将来を担う子供たちが神戸港に愛着を持ち、海・船に親しみを感じることができるよう、これまでも造船所での進水式の見学会や海、船、港に関する様々なイベントを開催してきました。しかし船舶の大型化とコンテナ荷役の進展により、港は沖合いに展開されるようになり、港と街に暮らす人々との距離が遠くなりました。「みなと」が子供達から見えにくいものになっており、一過性のイベントでは「みなと」を感じたり、港の重要性を伝えることが難しくなってきているのです。そのため、子供たちに「みなと」を身近に感じ、「みなと」を学べる副教材「海とみなとが仕事の舞台 神戸港」(写真参照)を作成し、学校教育の場で活用していくことを考えました。
官民一体となった取り組みとするため神戸港の海事企業・団体で構成する「神戸海事地域人材確保連携協議会」を昨年6月に立ち上げ、小学4年生と中学2年生を対象とした2つの教材を作成することにしました。小学4年生については社会科の授業で地元神戸のことを学習する機会があり、この教材を併せて学習することで、より港の理解が深まると考えたためです。中学2年生については将来の職業について意識する年代であり、トライやる・ウィークといわれる就業体験を通じ、海の仕事も選択肢の一つとして示すことができると考えたためです。副教材は、港の仕事に憧れや親しみを感じてもらえるよう、海・港で実際に働いている20~30歳代の約20人を写真で紹介し、それぞれの若者が海・港で働くことの楽しさや、やりがいを子供たちに呼びかけています。また、港の役割の大切さを伝えるため、神戸で作られた新幹線が神戸港から輸出される様子などもイラストを使って分かり易く紹介しています。昨年11月に市内の小学4年生と中学2年生全員に配布しており、新聞紙面で取り上げられるなど、これまでにない取り組みとして評価されております。

「みなとの学習会」の開催
また中学生2年生を対象に進路選択の一つとして海事産業を紹介する「進路ガイダンス授業」を行いました。講師は協議会の会長である、神戸大学海事科学部の石田憲治教授にお願いし、自らの船員としての体験に触れながら、日本にとっての海運、港湾が果たす役割を分かりやすく説明していただきました。生徒からは「将来、船員になるために、今何をしておいたらいいのか」などの質問が挙がるなど、多くの生徒が海事関係の仕事に関心を示しました。これらの取り組みは今後も継続して行なう予定です。
おわりに
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- 神戸港における海事人材確保・育成の取り組みについて 神戸市長◆矢田立郎
- 編集後記 ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌
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