Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第211号(2009.05.20発行)

第211号(2009.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆今年3月に、海上自衛隊の護衛艦が2隻、東アフリカのソマリア沖に派遣された。いうまでもなく、派遣の目的はこの海域に出没する海賊への対策として船舶を警護することであった。当初、警護の対象は日本に関係する民間船舶であったが、日本以外の国の船舶をも対象とできることがこの4月に衆議院で可決された。衆議院の海賊・テロ対策特別委員会における海賊対処法案(海賊新法)がそうである。本誌で岡 俊彦さんは海賊新法の成立が海洋空間における日本の安全保障を今後本格的に見直す契機になるとの見通しを提示されている。ソマリアだけに目を向けるべきではなく、中国やロシアによる海軍増強、北朝鮮によるミサイル発射など、東アジアの海洋安全保障をめぐる問題が山積しているからだ。さらにいえば、北朝鮮による拉致が海を介して行われたことにも注意を喚起しておきたい。
◆海賊による船舶の襲撃は人的要因による海難である。ソマリアの貧困がその根にある以上、インド洋での警護活動は長期化することが予想される。海難を広く捉えてみると、違った面が浮かび上がる。大貫 伸さんは昨今の日本近海における海難の傾向を読み取る論考で、死亡・行方不明の事例に注目すべきと主張する。犠牲者へのいたたまれない思いと、のこされた家族が抱く痛恨の極みをよく知る人であるからこその主張なのだ。死亡海難は多くの場合、悪天候下で発生することは最近の事例でも明らかだが、外国人船員への情報提供が少しでも事故を未然に防ぐことに貢献できるとすれば、その具体策を官民一体で推進するべきだろう。われわれもかつてカリフォルニア沖の事故で3名の仲間を失った。そのうちの1人のご尊父はご子息への想いから精魂こめて竹細工を作られ、私のいる研究所に贈呈された。その作品の名は「静海」。
◆静かな海のイメージは、春の瀬戸内海をほうふつとさせる。松浦宣秀さんは古代の製塩法であった藻塩作りの取り組みを通じて、独創的な環境教育、地域興しの運動を進められている。海藻を焼いて得られる藻塩はマグネシウム、ヨード分に富んだ健康食品でもある。材料はホンダワラ。日本沿岸では豊富にみられる褐藻類の仲間である。子どものころ、気泡をプチプチつぶして遊んだ経験をもつ方も多いにちがいない。ホンダワラの仲間は群落を形成する。魚の隠れ家となり、幼魚や生き物の成育場となる。静かな海は海のゆりかごでもあった。かつてパプアニューギニアの赤道直下にあるマヌス島で調査をしたおり、漁撈民が採集したウミブドウが内陸部に住む農耕民との交換品とされていることを知った。ウミブドウは食べると歯ごたえのよい海藻で、塩の不足する内陸部で珍重されたのだった。豊かさと恐ろしさの二つの顔をもつ海を考えさせられる号であった。  (秋道)

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