Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第183号(2008.03.20発行)

第183号(2008.03.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆最近、房総半島野島沖、明石海峡で相次いで海難事故が発生した。まだ行方不明の状態にある方がおられる。ここで事故の原因をつまびらかにする訳ではないが、陸上では自動車による交通事故があとをたたないなかで、海の衝突事故はそれほど日常茶飯事におこるとはおもってもみなかった。陸では国ごとに法規が異なっているのがふつうだが、信号の色は世界中どこでも青が進めで、黄色が注意、赤が止まれとなっている。これに対して、海では国際的な規約が重視される。考えてみれば当然のことで、イギリスの客船が海を越えてアジアにやってくるのに海域ごとに法律が大きくかわれば混乱を招くだけだ。本号で国土交通省海事局の安藤昇さんは、海の安全に関する規制や基準を決める国連の国際海事機関(IMO)におけるわが国の立場や位置付けについて興味ある提言をされている。アジア諸国が海運・造船・船員供給面で世界をリードしているにもかかわらず、欧米諸国にくらべてIMOにおける存在感が低いという。他の国ぐにと連携してゆくべきとする意見は、傾聴に値する。
◆海を越境するのは、人とモノ・情報だけではない。船のバラスト水がとんでもない生物を他地域に輸送する例はすでに本誌でも取り上げられているが、サイエンスライターの佐久間功さんは、そうした外来種問題にたいするジャーナリズムの対応に疑問の念をいだかれた。東京湾で見つかった上海蟹をめぐるマスコミの対応がその例として挙げておられる。モクズガニ自体は国内でも分布することが知られており、奄美大島ではモクズガニを獲る立派な筌がある。日本における外来種問題は環境だけでなく、社会、経済にも影響を及ぼすので、国家の安全保障としても取り上げるべきとする主張には賛同したい。逆に、われわれが多国に外来生物を運ぶ可能性もあるわけで、企業、個人にたいしても海を越える生物についての教育、啓発活動を進めるべきだろう。
◆海にたいする理解と教育という点で、東京都立大島海洋国際高等学校の鈴木光俊さんは、同校における海洋教育について紹介をされている。こんな学校があったのだ、という思いで楽しく読ませてもらった。国際感覚といっても、現場を踏まなければそうやすやすと身につくものではない。このような教育は柔軟な思考力をもつ若者を対象とするからこそすばらしいことなのだ。海外への修学旅行が普通に行われてきた今日、船で旅する修学旅行が実現しないものか。ただし、船酔いする学生からはけむたがられるかもしれない。(秋道)

第183号(2008.03.20発行)のその他の記事

ページトップ