Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第174号(2007.11.05発行)

第174号(2007.11.05 発行)

編集後記

◆今年のノーベル平和賞は地球温暖化問題への貢献でアル・ゴア前米副大統領と国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC:ラジェンドラ・パチャウリ議長)に授与されることになった。授賞理由には<地球温暖化と人類活動の関係は1980年代には単に興味深い仮説に過ぎなかったが1990年代に、より確実性が増し、最近の数年間はより明確になった>とある。アル・ゴア前米副大統領は<今取るべき方策について世界の共通理解を進めた、おそらく唯一の環境政治家である>と認められた。

◆IPCC第4次報告書によれば、この百年間に地上気温は0.74度上昇した。地球の気候システムではこの熱の行き場は海以外に無いと言っても過言ではない。北極海の海氷の減少などはそのあらわれである。最近、急激に増えている異常気象や極端現象の源は、温暖化した海にある。

◆このような状況の下では、温室効果気体の放出削減に向けた努力と共に、既に起きている温暖化に対応する努力も重要になってきた。2009年に世界気象機関がユネスコその他10の国連機関と共に、実に19年ぶりに予定している第3回世界気候会議(WCC-3)では<Predicting Weather and Climate for a Changing World>として後者の方向に大きな政策転換がなされる予定である。先進諸国は豪雨や巨大化する台風などの異常気象の発生を少なくも一シーズン前には予測する技術の開発を進め、途上国とその情報を共有するメカニズムの導入に努める必要がある。温暖化への対応策においても国境を越えたパートナーシップが不可欠になってきた。

◆IPCC第4次報告書は今後100年間における水位上昇は数十センチを予想している。エルニーニョ現象の恒常化などもありえることを考慮すると海域による違いはかなり大きくなるかもしれない。沖ノ鳥島は40万平方キロもの排他的経済水域(EEZ)の根拠となっているが、浸食も進んでいることから水没の危機が迫っている。この島の自然再生を促す環境技術の開発は同様の悩みを持つ国々にも歓迎されるに違いない。この方面の努力について茅根 創氏に解説していただいた。

◆7月に海洋基本法が施行され、目下、海を知り、守り、持続的に活用するために海洋基本計画の策定がなされていると聞く。海を知るには海洋の調査研究が不可欠である。白鳳丸や淡青丸など海洋研究船の船長を久しく経験してきた鈴木祥市氏には環境を汚染せず、あるがままの自然を観測できる研究船の構造についてタイムリーな提言をいただいた。

◆米国、英国、フランス、ロシアなどではわが国とは好対照に海の研究が学問の全分野の中で大きな比重を占めている。最近はお隣の中国においても驚くほど大きな研究費が割り当てられるようになった。これは国際社会の現実の力学の中にあって、安全保障、物流の確保、海洋生物資源や海底資源の確保などの重要性を国と国民が冷徹に把握し、その基盤となる海の研究を支援するコンセンサスがあるためである。河村雅美氏には戦後社会が陥った過剰なマインドコントロールから開放される必要性について提言していただいた。  (山形)



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