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オーシャンニュースレター

第172号(2007.10.05発行)

第172号(2007.10.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科教授・副研究科長)◆山形俊男

◆立春後の二百十日から二百二十日の間は台風がよく来るといわれる。今年は9月1日から10日が対応していたが、案の定、9月7日に強い台風9号が関東地方を直撃し、北日本を縦断する進路をとって各地に大きな傷跡を残した。1949年8月31日に小田原市付近に上陸したキティ台風もほぼ同じ進路をとり、土砂崩れや堤防決壊などで多くの災害をもたらした。この時は満潮時と重なったため高潮によって多くの船舶も被害を受けた。この1949年にも今年と同様に熱帯太平洋にはラニーニャ現象が発生していた。フィリッピン東方海上の対流はまだまだ活発である。これから秋が深まっても強い台風が発生する可能性がある。加えて、今年は秋霖前線も活発なので、水災害に警戒を怠らないようにしたい。

◆台風9号による嵐の中、7、8日の両日に日本学術会議が主催した「持続可能な社会のための科学と技術に関する国際会議」に参加した。昨今は先進諸国における競争的なイノベーションの話題が賑やかである。しかし、途上国にとっては経済的、文化的に受け入れられるイノベーションこそが重要であることを再認識した。

◆今号では、まず木澤隆史氏が日本舶用工業会における舶用マイスター制度導入の話題について紹介している。昨年度31年ぶりに建造量の記録を更新するなど、活況を呈している造船業界とともに、舶用業界も好況下にある。多様な機械、機器類を製造する舶用業界は造船業界に比べて注目されることは少ないが、強い国際競争力を持つ。この分野の高度な技能の継承と人材の確保に向けて舶用マイスター制度が定着することを期待したい。

◆市川智生氏は開国間もない明治政府が不平等条約下で力を入れた海港検疫の歴史を解説している。地球温暖化、経済社会のグローバリゼーション等により、HIV、SARS、デング熱、マラリア、西ナイル熱、鳥ウイルス、耐性結核菌など感染症の問題は極めて今日的なテーマでもある。迅速な情報収集に基づき、防疫体制の強化に努力した先人の叡智に学ぶべきことは多い。

◆中坊徹次氏は水産資源の保護には種を正確に分類することがまず必要であることをシマアジの具体例から説き起こしている。形態や生態の研究とゲノム研究を統合して種の輪郭を描く作業は学術的にも極めて魅力的である。適切な支援体制がとられることを期待したい。  (山形)

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