Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第154号(2007.01.05発行)

第154号(2007.1.5 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆2007年の幕が開いた。今年は戦後間もない昭和22年から24年に生まれたベビーブーム世代の退職者数がピークを迎える。いわゆる<2007年問題>の年である。この用語は情報システムを担って来た人材が引退することから生まれたものである。しかし様々な分野で技術伝承の断絶が危惧されることから、より広い意味で使われている。「問題」というと一般的には暗いイメージがあるが、むしろそれに対処する試みが新世界への扉を開く可能性を秘めていると考えるべきである。実際、科学・技術の世界においては問題を見つけ、それを解く試みで、より高度なレベルに到達して来た。問題を発見することができるならばそれは一流の証とも言われる。

◆問題解決に向けた持続的な試みの大切さは、海事においても同様である。本号では巻頭のオピニオンとして日本財団会長の笹川氏に持続可能な海事活動は如何にあるべきか、国際的な視点から展望していただいた。未来を開くことができるのは、結局は希望を抱ける人々である。こうした人材育成に向けて海事大学間の国際連携を実現した国際海事大学連合の一層の発展を期待したい。国土交通省海事局の村上氏には海運を担うヒューマンインフラに国際標準を導入することに成功した国際労働機関の活動について紹介していただいた。この画期的な海事労働条約は、世界海運の商業主義を超えて、船員の労働環境の向上という面から世界海運の持続可能性を追求する大きな一歩になるであろう。

◆国際海洋研究所のラジャゴパラン教授にはインドのエコ・ビレッジ・プロジェクトについて紹介していただいた。インドは中国と同様にBRICsの一つとして急速に経済発展している国である。しかし、一方で実に悲惨な状況におかれている人々も多い。中国が地域間の格差に悩むとすれば、インドは階層間の格差に悩んでいるといえる。実際、数年前にニューデリー周辺を訪問した際には、アンタッチャブルと呼ばれる人々が路上などで想像を絶する生活環境にあるのを見て驚愕した。ラジャゴパラン教授らはベンガル湾に面するティルチェンドールにおいて沿岸地域に住む人々を貧困から解放するために様々な活動を行なって来た。住民の自立に向けた活動をいかにして持続させるか、ここにも難しい問題がある。教授が住民の心にともした希望の灯がより輝くような、そんな世界の実現に向けて、今年こそ、私たちもいかに小さな一歩であっても進めてゆきたいと思う。  (山形)

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