Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第152号(2006.12.05発行)

第152号(2006.12.5 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆書店の店頭にはもう次年度用の手帳がうずたかく積まれている。しかし今年はまだまだ気象災害のニュースが引きも切らない。11月初旬には網走支庁の佐呂間町で竜巻が発生し、9名もの人命が失われた。オホーツク海の海面水温が高いところに、偏西風の蛇行に伴って寒気が入り、大気が不安定になっていた。発生した積乱雲に伴う上昇流が強いスピンを励起したのである。

◆竜巻の強度はフジタスケールによって表現される。これは1971年にシカゴ大学の故・藤田哲也博士が風速と災害の関係に着目して導入したものである。F0からF5まで6段階あり、佐呂間町で発生したものはF3程度だが、国内の観測史上では最強レベルである。このF3クラスでも風速は毎秒70~92メートルにもなり、定義によれば、<壁が押し倒され住家は倒壊、非住家はバラバラに飛散し、鉄骨造りでもつぶれる。汽車は転覆、自動車は持ち上げられ飛ばされる。森林の大木でも、大半折れるか倒れるかし、引き抜かれることもある>という。

◆熱帯太平洋ではエルニーニョ現象が成長しているので、これから春先にかけては偏西風が頻繁に蛇行するであろう。海面水温がまだ高い状態のところに、寒気が入ると低気圧は急速に成長し、爆弾低気圧になることがある。海運や漁業関係者は特に注意してほしい。

◆本号では、まずエネルギー問題と海洋に関する諸問題について広範な視点から十市氏に解説していただいた。わが国には、海洋資源開発における法制面の整備の遅れ、安全保障の視点も含む総合的なエネルギー国家戦略の欠如、国際的に特異な漁業補償のあり方など、問題が山積している。新しい海洋国家を拓く海洋基本法の制定に期待したい。

◆花輪氏には世界海洋の新しい観測計画であるアルゴ計画について解説していただいた。関係者の鋭意努力によってわが国は米国に次いで多くのフロートを世界海洋に投入して、海中データの取得に国際貢献しているという。世界海洋の新しいイメージの描かれる日が待たれる。

◆美食家にとって、今は上海ガニの季節である。武田氏には生態学の視点から、このモクズガニの仲間について解説していただいた。海と川を行き来する<通し回遊>の典型的な生態をもつ上海ガニ、この自然の恵みに感謝し、地球生態系の保全にも思いを馳せるならば、今年のカニ味噌は一味違うかもしれない。  (山形)

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