Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第146号(2006.09.05発行)

第146号(2006.09.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆この夏、東京大学で海に関する二つの講演会が開かれた。一つは東京大学海洋アライアンスが<東京大学の海研究-海からの恩恵と災害->と題して農学部の弥生講堂に於いて主催したシンポジウムであり、もう一つは海洋技術フォーラムが理学部の小柴ホールで開いた講演会である。ともに立ち見が出るほどの盛況であった。

◆ところで昨年度に改正された国土形成計画法では排他的経済水域(EEZ)を国土に準じて扱うことになった。また海洋基本法の制定に向けた準備が武見敬三国会議員を中心に進んでいる。こうした追い風を受けて、海への関心が産官学においてかつて無いほどに盛り上がって来た。

◆わが国はしばしば資源小国と称されてきた。しかしそれは日本が国として形作られた時からの話ではない。奈良時代から金、銀、銅などの鉱物資源を掘り尽くし、海外との交易で使ってしまったのである。実際、江戸中期に幕府政治を担った新井白石は、生糸等の消耗品との交換で貴重な金銀を失うには及ばないとして、対馬藩の李氏朝鮮との貿易を制限している。しかし、わが国が資源国になれる日が再び訪れる可能性もある。浦辺氏によれば、わが国のEEZはその形成の地質学的なユニークさから資源に富むという。今こそ海底資源の探査、開発技術と環境保全技術を総合的に高めてゆく戦略的な海洋政策が望まれる。

◆今、地球上には日本の国土の100倍もの砂漠がある。さらに毎年6万平方キロが砂漠化している。これは気候の変化だけでなく、過剰な牧畜、増大する耕作地などによる複合的な問題である。しかしわれわれは地表にのみ目を奪われていてはならない。海の中でも砂漠化が進行しているのだ。梅津氏はこの海の砂漠とも言うべき<磯焼け>の原因の解明と対策に向けた水産庁の総合的な取り組みについて紹介する。

◆こうした海の異変は河川を通じて陸の異変とも繋がっている。森・川・海の間を水も物質も循環するからである。人々は長い時間をかけて、この循環系を持続的に活用する術を編み出し、豊かな地域文化を育んで来た。しかし、こうした循環系は多くの地域で乱れてしまった。下津氏は豊かな海の再生を目指して<万之瀬川アートプロジェクト>から始まった地域社会のネットワーク活動を紹介している。このような活動が全国の森・川・海に広がることを期待したい。(山形)

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