◆桜も散り、早や5月となった。春の嵐というわけでもないが、日本の国内では政権闘争、耐震偽装、情報の流出など政治・経済・社会の話題がめまぐるしく日常を駆け抜けている。一方、日本を取り巻く海に眼を向けてみよう。いまさらというわけでもないが、海のさまざまなできごとがわれわれにいくつものメッセージを突きつけている。本号で登場する対馬海峡と北海道北部では、いずれも海の生き物が人間活動によってマイナスの影響を受けたエピソードが取り上げられている。
◆日本の鯨研究の第一人者である大隈清治さんは、韓国と日本を結ぶフェリーボートが洋上でクジラらしき物体と衝突する事故が頻発していることに注目した。クジラの個体数と船数の増加、船の大型化と高速化が要因という。陸上とおなじような事態が海でも起こっているといえば言い過ぎかもしれないが、的を射た指摘だろう。4月初旬にも、鹿児島県沖で重軽傷者が100人を越える海の衝突事故が起こった。クジラでなく流木と衝突したとする説もあるが、海の過密化が進んでいることはたしかだろう。
◆重油を運ぶ船が衝突や座礁事故を起こした場合、さらに被害が広域かつ長期にわたっておよぶであろうことは容易に想像できる。海難事故を完全に防止できないとしても、不測の事態を想定した緊急対策の推進は火急の課題であろう。
◆海洋空間で油流出事故がとくに野生生物に及ぼす影響について取り組んでいるグループが北海道にある。環境省が設置した海鳥センター友の会がそうだ。事務局の佐藤美穂子さんによると、GISを活用して油汚染に対して環境の受ける影響のちがいを地図化する地道な試みが一定の成果をあげているという。拍手だ。知床で3月に海鳥が大量に漂着したが、その原因が人間活動によることは間違いない。海の仕事にかかわる人間ならば、事故に備えるうえで海の生き物への配慮だけは忘れたくないものだ。(了)
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