Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第134号(2006.03.05発行)

第134号(2006.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆数学者藤原正彦氏のベストセラー<国家の品格>を読んだ。科学の世界においても<人間の傲慢さ>が目に余る昨今の状況にあって、久しぶりに溜飲の下がる思いがした。人と環境の問題が極めて重要であることは言を待たないが、それがわが国では基礎的な学問分野にまで浸透し、現在の社会にすぐに役に立たないような分野が切り捨てられようとしている。すでに各地の大学において、自然科学や理学のタイトルがどんどん消えているらしい。これはかつて中国で吹き荒れた文化大革命にも譬えられるのではないだろうか。

◆地球温暖化も極めて重要な問題である。しかし、それへの対策に没頭する余り、人間のシナリオ主導の研究開発で気候変動を支配できると錯覚している人が多いようだ。自然の複雑な仕組みを謙虚に理解する試みが並行してなされないならば、傲慢のそしりを免れない。<すぐ役にたたないようなものに優秀な人材が命をかけて取り組んでいるような国だけが、結局は伸びる>という藤原氏の言葉は重い。

◆さて、今号では広大な太平洋に分布する三地点からの話題である。大槌町の山崎町長には海と共に栄えてきた<ひょっこりひょうたん島>の舞台から住民と行政の協働する<海のまちづくり>について紹介していただいた。ホノルルからは、アジアと太平洋の気候を研究するために日米両国が9年前に設立した国際太平洋研究センターの研究活動について、マックレアリー所長に寄稿していただいた。多くの国々から優秀な若手人材が集まり、いまや世界の<センター・オブ・エクセレンス>として発展している。日米両国の協働が美しい形となって結実した例である。航海訓練所の斎藤氏には国土交通省を中心に本財団も支援する高度な船員の育成に向けた取り組み、特にマニラで開催されたセミナーの様子を紹介していただいた。海技の継承に向けて国境を越えた試みが活発化している。

◆次世代を担う人材の育成が国境を越えて成功するかどうかは、文化を担う優れた指導者の存在が鍵になるという斎藤氏の意見に、国際太平洋研究センターの設立に関与した一人として深い共感を覚える。(了)

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