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オーシャンニューズレター

第125号(2005.10.20発行)

第125号(2005.10.20 発行)

海の物流とロジスティックス戦略

オフィス☆海遊学舎主宰◆拓海広志

荷主企業の立場から見ると、海上輸送はそれだけで自己完結するものではなく、その総合的なロジスティックス戦略に基づく全体物流の一部分を担うべきものである。
海運・港運企業を含むLSP(ロジスティックス・サービス・プロバイダー)にも、これからの時代を生き抜くための変革が求められている。

ロジスティックスと「海の物流」

周囲を海で囲まれた国・日本の輸出入貨物のほとんどは船によって運ばれています(ただし、金額ベースで見ると航空貨物が30%を占める)。また、国内輸送においても、トンキロベース(輸送トン数×輸送距離)で見ると海上輸送の比率は40%を超しており、日本における外航・内航海運の重要性は非常に高いです。

しかし、荷主企業の立場から見ると、海上輸送はそれだけで自己完結するものではなく、その総合的なロジスティックス※1戦略に基づく全体物流の一部分を担うものです。そこで、これからの「海の物流」を考える上でのヒントとするため、今回は荷主企業が全体物流を構築する上で海運・港運企業を含むLSP(ロジスティックス・サービス・プロバイダー)に求めているものが何なのかを考えてみようと思います。

荷主企業のLSPに対する要求には多くのものがあります。もちろんコスト削減や安全性および利便性の向上などは日常的に出される要望でしょう。しかし、少し視線を高くして、荷主のニーズにおける今日的キーワードを三つ選ぶとすれば、SCM(サプライチェーン・マネージメント)とアウトソーシング、そしてエコロジーになるだろうと私は考えます。そして、これらはお互いに深い関連性を持っています。

SCM(サプライチェーン・マネージメント)とロジスティックス

SCMとは自社内の全部門および自社と取引関係のある企業群をつなぐサプライチェーンを統合的に管理する経営手法のことです。その主眼は、出来るだけ正確な需要(販売)予測を行うことにより、供給(生産)を適正レベルにすること。また、製品や部材の在庫を可能な限り低く抑えながらも、必要な時に必要とされるモノを必要な量だけ、適切な状態で届けられる仕組みを構築することです。

SCM実現のためには、部門別に考えた部分最適の物流ではなく、調達から生産、流通、販売、アフターセールス、廃品回収に至るまでのモノの流れと在庫を一元的に管理する全体最適なロジスティックス・システムを構築することが不可欠です。そして、それは顧客へのサービス水準とそれに要する総コスト、またサプライチェーン・ネットワーク※2の関係を最適化するものでなければなりません(図参照)。

SCMの考え方はファイナンス理論を前提として成り立っていますので、損益計算書上の売上と利益だけではなく、キャッシュフローを良くすることや、投下資本コストの回収効率などが重視されます。この結果、荷主企業は在庫削減に向けて一層力を入れるようになっており、ロジスティックス・コストにおいても輸送費、保管費、作業費と共に、在庫のキャリング・コスト※3が注目されています。

エコロジーとロジスティックス

SCMは個別には利害が相反することもある独立企業群を全体最適という考え方の下に統合するものですから、その実現は容易ではありません。しかし、それは企業活動の総コストを抑制し、その競争力を向上させるだけではなく、地球資源の浪費を抑えるものでもありますので、将来的にはエコロジーの観点においてSCMがISOによる標準化の対象となる可能性を指摘する人もいます。

また、これからのモノの流通においては、以前はコストとして考えられていなかった廃棄物の回収、再生、処理に要する費用や、モノの移動に際して発生する環境への負荷(日本の国内輸送でトラックから船、鉄道へのモーダルシフト※4が推奨される理由)といったことも無視できませんから、「モノは必要なだけしか作らず、必要なだけしか動かさない」ということを徹底していく必要があります。このことも荷主企業がSCM確立に向けて多大なエネルギーを注ぐ理由となっています。

■SCMとロジスティックス・コスト

アウトソーシングとロジスティックス

このような時代の変化によりLSPに求められるものも大きく変わってきました。つまり、単に日常の物流業務を堅実にこなすだけではなく、荷主企業のロジスティックス・システムを運営、管理する能力や、そのシステム構築自体をアウトソースされても対応できる能力が求められるようになってきたのです。

LSPがそうしたニーズに応えていくためには、まず統合的物流サービスの構築能力、特にB2B(企業対企業)物流とB2C(企業対消費者)物流を一元的に取り扱える能力が必要です。また、高度なIT能力、グローバル・ネットワーク、荷主のサプライチェーン・ネットワークをデザインするためのコンサルタント機能、さらには在庫買取、代金回収、貿易代行といったファイナンス機能も求められるでしょう。

ところで、SCMを有効に機能させるためにはサプライチェーンの各部分を担う個々の企業が自らのコア・コンピタンス(競争力の源泉となる本業部分)を強化することが必要です。逆にそうでない部分については、専門業者に戦略的にアウトソースすることでコスト削減と機能強化を図れる場合があります。こうした考え方も荷主企業からLSPへのロジスティックス・サービスのアウトソーシングを加速しています。

LSPと「海の物流」のこれから

そんな潮流の中で世界の主要LSPは、インテグレーター(キャリア、フォワーダー※5などといった旧来の枠組みを超えて機能統合したLSPのこと)としての能力を高め、コンサルタント機能やファイナンス機能をも持ち合わせたLLP(リード・ロジスティックス・プロバイダー)になることを目指しています。また、広域流通に対応するためのグローバル・ネットワークを充実させると共に、域内流通に対応するための主要国・地域での展開にも力を入れています。

もちろん「海の物流」に携わる海運・港運企業の多くは、こうした潮流を敏感に捉え、変化を遂げようとしています。大手海運企業の中には単独でLLPを目指しているものもありますが、異分野のLSPと戦略的提携をすることによってそれに対抗する海運・港運企業も少なくありません。

また、経営近代化の遅れが指摘されがちな日本の内航海運ですが、官民を揚げてのモーダルシフト促進活動の後押しを受けている今が革新のチャンスです。しかし、それによって基礎素材や原材料以外の貨物、つまり日用雑貨、家電製品、宅配便貨物などの取り扱いを伸ばすためには、それらの荷主企業のニーズを的確に把握せねばなりません。

市場のニーズを見極め、それに対応しながら自分の居場所を作り出すことができたLSPだけが、これからの時代を生き抜くのではないでしょうか。 (了)

※1 ロジスティックス=原材料や部品、製品などの効果的なオーダー管理と、それらの調達、輸送、保管業務を戦略的にマネージメントするプロセスのこと。

※2 サプライチェーン・ネットワーク=モノをどこで作り(仕入れ)、どこでどう保管し、どこへどう運ぶのかといったことの全体図のこと。

※3 キャリング・コスト=商品や取引のポジションを継続させるために発生する金利や保険料などの支払費用。

※4 モーダルシフト=トラックによる幹線貨物輸送を、「地球に優しく、大量輸送が可能な海運または鉄道に転換」すること。

※5 フォワーダー=荷主と海運、空運、陸運など実際の運送を行うキャリア(運送事業者)との間に立って、貨物の運送取扱、利用運送およびこれらに付帯する業務を行う者。

●オフィス☆海遊学舎ホームページ http://www17.ocn.ne.jp/~hellosea/

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