Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第119号(2005.07.20発行)

第119号(2005.07.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆安全と安心のキーワードが社会のあらゆる分野で語られるようになった。JR福知山線の鉄道事故や大雨による災害、医療ミス、鳥インフルエンザ、遺伝子組み換え食品など、突発的な出来事を含め、リスクが日常化、多発するなかで、それに麻痺してしまうことが恐ろしい。まして、危険性を実感できない海外の状況となると馬耳東風。問題は深刻だ。マラッカ海峡の海賊事件やインド洋の大津波などの衝撃的な事件の記憶も脳裏から次第に消え去り、風化してしまうのだろうか。過去からの膨大な出来事を記憶しておくことの意味を、現代人はいまつきつけられているのではないか。

◆事件や事故はふつう、ある地点で発生する。しかし、インド洋津波や地震のように、面として広域にわたり災害が広がることもあるし、同時多発テロのような分散型の場合もある。もちろん自然災害と人為的な破壊行為とでは、その発生に関わる要因の性格はちがう。どちらの場合も、予測がきわめて困難な場合が多いだけに、われわれ現代人は、あらためて予防措置、防御策を考えざるを得ない局面に追い込まれている。

◆東南アジアに多発する海賊行為にたいして、マラッカ海峡周辺だけがホット・スポットではなかった。白石氏がミンダナオ島からサギヘ・タラウッド諸島、スラウェシ島、東カリマンタンにかけてのセレベス(スラウェシ)海一円のネットワークを通して活動するテロリストについてとりあげている。海賊・テロリストだけでなく、複雑な物流のネットワークのなかでこの問題を捉える視点は、対症療法的な対策の限界をつく指摘として重要だろう。

◆笹川氏の提言する「海事活動の持続可能な発展」はまさにこの点を強調したものである。その具体例がマラッカ海峡における安全航行への国際連携の取り組みである。この秋にインドネシアで開催予定のマラッカ海峡会議は、その意味で世界の耳目を集めるものであろうし、日本の主張がどのくらい生かされるか、本誌でその結果を紹介できればとも考えている。

◆人為的なテロを撲滅する努力がなされる一方、地震や津波を予測し、被害を最小限にするためのさまざまな科学研究が世界中でおこなわれている。平氏が謙虚に語るのは、地震を予測するうえでの現代科学の限界と未熟さである。自然は、人間を超える大きな未知の存在であることを、科学万能といわれる現代にあっても、われわれはしっかりと認識しておくべきなのだ。海の記念日に想う。海の安全と安心はただで得られるものではない、という認識を新たにすることは、21世紀の人間の生きざまを変えることになる。そのことだけは間違いあるまい。(了)

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