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第114号(2005.05.05 発行)【特集】海のゴミはどこへいく
第114号(2005.05.05 発行)

南鳥島における海岸清掃作戦

海上保安庁千葉ロランセンター◆齋藤信夫

東京から南東約1,900km。南鳥島の海は、エメラルドグリーンに輝きたとえようもないほど美しい。
しかし、その美しさと対照的に、おびただしい量のゴミが打ち上げられた海岸には目を背けたくなるほどの惨状が広がる。
昨年、島に滞在勤務を行っている海上保安庁と気象庁の職員と自衛隊員のほぼ全員が参加してビーチクリーンアップ作戦を行った。
回収された驚くべき量のゴミから環境保護の重要性を再認識した。

南鳥島では水や電気も自分たちでつくる

南鳥島に滞在するのは海上保安庁と気象庁の職員と自衛隊員のみ。

南鳥島は東京から南東約1,900km、北緯24度17分、東経153度59分に位置する珊瑚礁でできた小さな島です。この島は、1辺が約2kmの正三角形に近い形をしており、日本の最東端としても知られています。島の平均気温は約25度で、冬以外、日中は30度を越える猛暑となります。亜熱帯気候に属し、椰子やパパイヤが自生し、鳥島の名のとおり、多数のアジサシがコロニーを作って生息しています。また、季節によっては南十字星を見ることができます。

私は、海上保安庁の所管する千葉ロランセンターの職員で、この島にあるロランC局の運用と保守のため9名による3週間の滞在勤務をしています。南鳥島のロランC局は100kHz、送信出力1,800kWで船舶や航空機に位置を知らせるための航法用の電波を発射しています。平成5年、米国沿岸警備隊からこのロランC局の業務を引き継ぎました。

南鳥島では、局を管理するだけでなく、水や電気も自分たちで作らなければなりません。電気はディーゼル発電機により、毎日1,500リットル軽油を消費して作っていますが、この電力のおよそ2/3以上がロランの電波に使われています。また、水は海水に圧力をかけて浸透膜を通過させて水だけを濾し取るようにして作っています。こうして、たった9人のメンバーで24時間輪番当直を組みながら局を保守・運用し、水、電気などのライフラインを確保し、これらを含む施設の維持管理、補修、調理、運搬、車両整備、草刈り等の作業を行うため、一人が何役もこなさなければなりません。滑走路が1,300mと短く着陸できる滑走路が限られるため、滞在要員の交代と物資輸送は当海保のYS-11型のプロペラ機で行っていますが、この飛行機は就航してからすでに40年以上が経っています。

島の住人は、当庁の他には気象庁南鳥島観測所の職員14名と海上自衛隊南鳥島航空派遣隊の隊員12名のみです。

この島で人間が生活していればどうしてもゴミが出ます。当庁ではペットボトル、ビン、カンは2度洗浄した後、飛行機で持ち帰り、資源回収に出しています。不燃ゴミも当然持ち帰ります。燃えるゴミや生ゴミはこれまでゴミ捨て場で燃やしていましたが、ダイオキシンの発生のない環境により優しいゴミ処理を目指して、平成16年度からは軽油のバーナーでゴミを高温で燃焼させて処理する大型焼却炉を導入し、3庁で利用しています。また、飛行機で運べない大量の不燃ゴミ等は船の物資輸送の帰りの便で持ち帰るようにしています。生ゴミのうち、食べられるものについては飼っている9羽の鶏に与え、残りの生ゴミは穴を掘って埋めていたのですが、去年から家庭用のゴミ処理機を購入し、生ゴミを乾燥させ畑の肥料にするようになりました。

しかし、南鳥島にはもうひとつの深刻なゴミ問題があります。

エメラルドグリーンの海、そして打ち上げられたゴミのビーチ

回収したゴミの山。海は汚れているのだという事実を思い知らされる。

2004年10月10日午後1時、南鳥島のビーチクリーンアップ作戦実施のために3庁の職員が集合し、周囲6kmの海岸を二手に分かれて、島の反対側で合流するまで海岸に打ち上げられた多量のゴミを拾い集めていきました。太陽が西に傾き、あと1時間足らずで日没を迎えようとしている頃になっても、私たちの目の前の海岸線には海から打ち上げられたおびただしい量のゴミが果てしなく続いていました。当日は晴れ、気温約30度、強い日差しが照りつけ、体力を消耗してゆく中、90リットルのゴミ袋を片手にこぶし大以上のゴミを拾い集めながら海岸を進みました。

ペットボトル、ビン、発泡スチロール、プラスチックコンテナなどの他、ナイロンロープの切れ端、ボンデン、網などの漁具も多く、ゴミ袋はいくらも歩かないうちにたちまち一杯になってしまいます。また、ゴミ袋に入れられない大きな材木、船舶をつなぎ止めるためのロープ、ソファー用の発泡ウレタンなどがあるため、少し進んではゴミを集め、当初予定していた数以上のゴミ集積箇所を設けなければならないほどでした。

こうして猛暑の中でのゴミとの格闘の中、一時の休憩を得て海を眺めれば、珊瑚礁で海が遠浅になっているため、燦々と降り注ぐ太陽の光を浴びて海は遠くまでエメラルドグリーンに輝いて見えるのです。このたとえようのない海の美しさと海岸に散在する多量のゴミ、このコントラストにはどうしても違和感を覚えずにはいられませんでした。

結局、作業が終了したのは予定時間を大幅にオーバーして、日没を過ぎてしまいました。収集したゴミをトラックに集めるのは翌日となり、4トントラック10台分もの量となりました。

炎天下で行われたビーチクリーンアップ作戦の模様。

今回、3庁合同のビーチクリーンアップ作戦に参加して、あまりに多くの多種多様なゴミが打ち上げられていることに驚きました。それらを見ると日本語、ハングル語、中国語、ロシア語を読みとることができ、発生源の特定はできないものの、太平洋を航行する船舶や北西太平洋の沿岸諸国からの排出(投棄)ではないかと推測できます。

いま、有害なゴミによる海洋汚染も確実に進行しつつあり、太平洋の深海の中でさえも、微量ながら人間しか合成できない有害な化学物質が検出されています。しかも、それらは海洋生物の食物連鎖によって濃縮され、たとえ微量であっても私たちの内分泌腺に作用する、いわゆる環境ホルモンとして有害に働くことがあるといいます。この進み行く海洋汚染を止める手だてはないのでしょうか?

子供たちへの環境教育の充実を

私は今回のことをきっかけに、「海岸清掃」をキーワードにインターネットで調べてみました。その結果、小・中・高等学校、市民グループ、ボランティア団体など非常に多くの団体が日本の各地で海岸清掃を実施しており、日本のみならず世界各地でもこうした活動が盛んに行われていることも知りました。こうした活動に参加された人々は、私たちと同様に、海岸のゴミの量に驚くと共に環境保護の重要性を再認識されたに違いありません。特に学生さんにとっては、環境を考えるすばらしい体験学習になっていることでしょう。悲観的になりかけた私の中の海洋汚染問題は、一方で、こうした活発な環境保護運動があることを知り、救われたような気がしました。

私たち大人ひとりひとりが環境保護の認識と高いモラルを持つことはもちろん必要なのですが、これからの将来を担う子供たちへの環境教育を充実させることがより一層重要ではないかと思います。(了)

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