Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第105号(2004.12.20発行)

第105号(2004.12.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆海の安全性とは何だろうか。広い領域に渡る問題群がこのなかに含まれることはいうまでもあるまい。キラー海藻というききなれない名前の海藻が海の生き物に甚大な被害をもたらすことを知った。海中で増殖し、とんでもない広い範囲にわたって毒をまき散らし、生き物を死に追いやる。毒をもつキラー海藻の旺盛な繁殖力はわれわれにも巣くうガン細胞をほうふつとさせる。海での拡散はまさに恐怖だ。麻薬どころの話ではない。水際作戦は緊急を要する。いまはやりの鑑賞用水槽での飼育を規制することも早急に実現すべきだろう。

◆生き物ではなく、放射性物質がいったん海中に流出すれば、恐怖を起こすであろうことも感覚として分かる。タレ流しや不法投棄は毒の拡散にほかならない。こちらのほうは生物濃縮を通じて人間の生命に関わる。安全性に対する規制と拡散の防止が不可欠であり、そのための関係者による厳粛な取り組みはキラー海藻とは異なった海の安全モデルとなるにちがいない。

◆現在、東シナ海の政治情勢が緊迫していることは周知の通りであるが、海の安全性は1つや2つの国の努力だけで維持・実現されるものではない。共有の場である海の安全を守るため、国際協調とともに高度の統治モデルが必要だろう。中国の隣国であるベトナムにいま熱い視線が注がれている。中国だけがアジアの海の安全性を考えるターゲットではない。ベトナムの海運・造船業界の動向が大きな政治的影響力をもつことは、これまでの中越関係を想起してみても明白であろう。海の安全性を生き物、核廃棄物、造船問題から考えるとき、異なったモデルを構築する重要性とその現代的な意義を知ることができるのだ。(了)

第105号(2004.12.20発行)のその他の記事

ページトップ