Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第104号(2004.12.05発行)

第104号(2004.12.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆隣国、中国に関するニュースが政治経済面で最近著しく増えている。眠れる獅子がいよいよ動き出したというところか。それにしても中国海軍の原子力潜水艦による領海侵犯事件には驚いた。このニュースは直ちに尖閣諸島問題、東シナ海の海底資源開発問題、サッカー騒乱事件、沖ノ鳥島岩礁説等とリンクし、市井では中国脅威論が賑やかである。東アジアにおける産業界の急速なボーダーレス化がもたらした経済面での活況とは対照的に、政治面での乖離は今後どのように調整されてゆくのであろう。

◆こんな折、井真成なる日本人の墓誌が西安で発見されたというロマン溢れるニュースが飛び込んできた。717年に18歳で阿倍仲麻呂、吉備真備らとともに入唐し、活躍していたらしい。カオス的状況にある今こそ、官により、時には民のレベルで続けられた、大陸との長い交流の歴史をじっくり振り返る必要がある。東洋史家(故)西嶋定生氏の言葉を借りるならば、世界史における自己の歴史の位相を見失ったものに、未来の世界に対する展望はありえないからである。

◆さて、今号ではアテネオリンピック470級セーリング競技で見事に銅メダルを獲得された関選手にヨットの楽しさについて寄稿して頂いた。水面を滑るような軽やかな文体に引き込まれ、読み進めるうちに私の中まで爽やかな風が過ぎていった。ヨット王国日本の誕生を期待したい。

◆この程、環境保全と開発の両立を目指す概念「持続可能な開発」を初めて提唱したブルントラント女史(元ノルウェー首相)に第13回ブループラネット賞が授与され、去る11月11日に記念講演会が国連大学で行われた。時宜を得て、池田、三宅両氏には、人と地球の共生を目指した身近な例である、那覇港の防波堤に再生したサンゴ礁について解説して頂いた。インフォメーションでは東アジア海域の持続可能な開発を目指すパートナーシップ「PEMSEA」の活動を取り上げたが、このような国際協力はますます重要になるであろう。われわれは今を豊かに生きると同時に、未来世代により良き地球環境を手渡す責務を負っているからである。「持続可能な開発」は文明を編み出した人類の永遠の課題であり、われわれは大自然への畏敬の念を持って行動すべきであるとする池田、三宅両氏のオピニオンを深く受け止めたい。(了)

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