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オーシャンニューズレター

第396号(2017.02.05発行)

船舶バラスト水管理条約の発効と課題

[KEYWORDS]国際海事機関(IMO)/船舶バラスト水問題/海洋環境保護
(公社)日本海難防止協会海洋汚染防止研究部主任研究員◆水成 剛

船舶のバラスト海水に含まれる生物が沿岸国の生態系を侵害するという船舶バラスト水問題に関し、2017年9月8日よりIMOのバラスト水管理条約が発効することが確定した。
本稿では、船舶バラスト水問題に関しての説明と今後の課題について述べる。

バラスト水管理条約の発効

2016年9月8日、フィンランドがIMO事務局長に船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約(以下、バラスト水管理条約)受諾書を寄託し、52番目の締約国となった。このことにより、バラスト水管理条約発効条件である締約国30カ国、商船船腹量合計35%以上が達成され、2017年9月8日に発効することが確定した。バラスト水管理条約は2004年2月に採択されたが、採択までの検討に約15年間、採択後も発効確定まで約12年がかかったこととなる。

船舶バラスト水問題とは

ほとんどの船舶は何らかの貨物を輸送することを目的としているが、必ずしもすべての航海において満載で行えるとは限らない。往路は当然貨物を積載するが、復路や別の地点への航海は輸送需要がない場合もある。船舶は貨物を積めば沈む(喫水が深くなる)が、貨物が少ないと当然浮く(喫水が浅くなる)こととなり、場合によっては舵やプロペラ等が水面上に露出したり、喫水が浅い状態では航海に必要な安定性(復原性)を確保できない場合もある。このような場合、船舶は周囲の海水を自らの空タンクに取り込むことで喫水を確保してきた。この海水が『船舶バラスト水』である。
しかしながら、1980年代末から、外来種の生物の増殖が原因と考えられる沿岸域海洋環境被害等の問題が顕在化し、これらの外来種は前述の船舶バラスト水に混入して移動してきたことに起因するのではないかとの指摘がされた(船舶バラスト水問題)。これは、空荷となる地点で積載したバラスト水に含まれる周辺の水生生物が、再び貨物を積載する地点で排出されることで、輸送されてきた水生生物により周辺の生態系が破壊され、固有種の絶滅や漁業被害等を惹起するというものである。
このため、バラスト水に含まれる生物等を何らかの手法で殺滅させてから排出することが検討された。殺滅させる方法としては、物理的手法(熱、電気、超音波、紫外線、キャビテーション等)、機械的手法(フィルタリング法等)、化学的手法(オゾン、塩素、化学薬品等)等が挙げられる。当協会においても、日本財団の助成事業として平成9年度~19年度の間、バラスト水に含まれる生物等の殺滅手法に関する調査研究を実施し、検討に貢献してきたところである。

■図1 バラスト水による水生生物の移動
出典:国土交通省 報道発表資料(平成16年2月16日)をもとに日本海難防止協会で作成
■最も顕著な環境影響をもたらした10種の水生生物
出典:同報道資料をもとに事務局で作成

バラスト水処理装置について

バラスト水処理装置は、前述のとおりさまざまな手法で生物等を殺滅させるものがあり、管海官庁(日本では国土交通省海事局)が審査し、型式承認が与えられたものについてIMOに登録することとなっている。なお、化学薬品等の活性物質を使用して生物等を殺滅させるものについては、排出時に化学薬品を中和などで無害化し、環境や公衆に影響がない状態でバラスト水を排出する必要がある。また、船体や乗組員に対する安全性も確保する必要がある。そのため活性物質を使用するケースでは各種安全性がIMOによって確認された後で管海官庁が審査することとなっている。現在、IMOで登録されているバラスト水処理装置は世界で65種類、日本の装置では9種類ある。

わが国での対応について

日本では、2014年5月に国会承認され、同10月にIMO事務局長へ条約加入書を寄託し、バラスト水管理条約の42番目の締約国となった。前後して、2014年6月には有害水バラストの排出を禁じる海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の一部改正法案が国会で成立した。同法律は条約発効日、即ち2017年9月8日に施行される。なお、型式承認に関しては、施行日には承認と搭載が進んでいなければならないため、先行して施行されている。
汚染バラスト水排出に係る罰則は、油や有害液体物質並びに廃棄物排出に係るものと同等の罰則である、1,000万円以下の罰金(過失の場合は500万円以下の罰金)となっている。
当協会が行った試算によれば、わが国から海上輸送されて世界の港で排出されるバラスト水は年間約3億トン、逆に世界の港から海上輸送されてわが国の港で排出されるバラスト水は約1,700万トンであり、資源輸入大国であるわが国は世界有数のバラスト水輸出大国となっており、適切に対応する必要がある。

今後の課題

(1)バラスト水処理装置の設置に関する課題
バラスト水処理装置については、2017年9月の条約発効後の最初の国際油汚染防止証書(IOPP証書)の更新検査まで搭載が猶予されている。逆に言えば、IOPP証書の更新検査までに対象となる船舶はバラスト水処理装置を搭載しなければならない。IOPP証書の更新間隔は5年間であるため、5年以内に搭載する必要がある。船舶によっては条約発効を見据えて条約発効前からすでにバラスト水処理装置を搭載しているケースもある。しかし、多くのケースは、今後搭載期限を見据えながら駆け込みで搭載するものと予想される。一方、装置を搭載することのできる造船所の絶対数は限られており、多くの船舶が駆け込み搭載を行うと造船所側のキャパシティが不足するおそれがある。IMOでは、バラスト水処理装置の搭載期限を更に延長すべきとの提案も上がっているが、自発的に早期に高価な装置を搭載した船主等から見れば搭載期限が先延ばしになるのは面白くない。また業界にも大きな混乱が生じることが想定される。よって、現行の搭載期限が維持されていることが望まれる。
(2)バラスト水処理装置の承認に関する課題
バラスト水処理装置の承認制度は、IMOのバラスト水管理条約のものと、自主規制を進める米国沿岸警備隊によるものとダブルスタンダードとなっている。現状、両規制は承認に係る試験方法等が異なっており、米国を含めた世界中を航行するためには両方の試験基準での承認を受けた装置を搭載しなければならないが、2017年1月現在で3種類しか存在していない。万一、米国沿岸警備隊の承認を得られなかった装置を搭載している場合は、当該船舶は米国への入港ができなくなり、ビジネス上大きな不利益を被る可能性がある。(了)

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