Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第383号(2016.07.20発行)

大きく動き出した海洋に関する世界の取り組み

[KEYWORDS]海洋生物多様性/海洋遺伝資源/持続可能な開発目標(SDGs)
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆寺島紘士

最近、国連の「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に関しての国際的な法的拘束力のある文書作成」決議、持続可能な開発目標(SDGs)を掲げる「持続可能な開発のための2030アジェンダ」採択など、海洋に関する世界の取り組みが大きく進展している。
これを受けて、BBNJ準備委員会、SDGs関係会議などさまざまな会議等が開催されており、海洋国日本は、それらに積極的に対応・参画していく必要がある。

海洋は、地球の表面の7割をカバーする水で満たされた一体的な空間であり、とくに、海洋秩序の原則を「海洋の自由」から「海洋の管理」へと転換した国連海洋法条約の発効(1994年)、およびリオの地球サミットにおける「持続可能な開発」原則および行動計画『アジェンダ21』の採択(1992年)以降は、海洋に関する国際的な取り組みが、各国およびその内部にも大きな影響をもたらしている。
そのような海洋に関する取り組みの中でもとくに2015年は節目の年となった。海洋をめぐるさまざまな分野、すなわち、公海における海洋生物多様性の保全と持続可能な利用、持続可能な開発目標(SDGs)、気候変動と海洋、北極政策、小島嶼開発途上国(SIDS)などに関して、その取り組みは大きく進展し、それが今年度に入っても続いている。

国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用

国連総会は、2015年6月「国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に関して国連海洋法条約の下での国際的な法的拘束力のある文書を作成すべき」とする決議を採択した。この問題は20世紀末から議論されてきていて、国連総会が、2004年からBBNJの保全および持続可能な利用に関する論点を検討するアドホック・オープンエンド非公式作業部会を設置し、2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)でも各国はこの問題に緊急に取り組むことをコミットしていた。
今回の決議により、国連海洋法条約の下の国際文書の条文案の要素に関して国連総会に対し勧告を行う準備委員会が設置され、早速、この3月末には国連本部で第1回準備委員会が開催された。準備委員会は2017年末までに4回開催される予定である。国連総会は、準備委員会の報告を考慮して、国連主催の政府間会議の招集および開始日を第72回国連総会終了(2018年9月)までに決定する。
BBNJの交渉は、とくに、①海洋遺伝資源(MGR)、②海洋保護区(MPA)を含む区域型管理ツール、③環境影響評価、④能力構築および海洋技術移転について行われる。
今回の国際約束作成の交渉については、総論的課題として、その普遍性および実効性の確保、「既存の関連する法的文書および枠組み並びに関連する世界的、地域別および分野別の機関を損なうべきでない」とする国連総会決議との整合性、国際約束の対象範囲・実施機関など、また、個別の課題として、MGRについては定義、法的性質、利益配分など、MPAを含む区域型管理ツールについてはその規制対象などが挙げられている。
準備委員会には、加盟国だけでなく、国際機関、NGOなどの参加も認められているので、国連経済社会理事会のNGO協議資格を有する笹川平和財団海洋政策研究所も準備委員会に参加して、本問題に関するわが国の有識者・専門家の知見が審議に活かされるよう努めている。なお、仮に国連海洋法条約の下でのBBNJに関する実施協定が2018年に政府間交渉で採択されることになれば、1995年の『国連公海漁業実施協定(略称)』採択に次ぐ、20余年ぶり3度目の国連海洋法条約の実施協定採択となる。

持続可能な開発目標(SDGs)

海洋にはさまざまな生物が息づいている

2015年9月の「国連持続可能な開発サミット2015」で新たな「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げる『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が採択され、私たちは世界・地域・国のそれぞれのレベルで、持続可能な開発のための目標達成に尽力することとなった。
この新アジェンダが掲げる「持続可能な開発目標(SDGs)」は、2001年のミレニアム開発目標(MDGs)に取って代わるものであるが、単にそれが達成できなかった課題に対応するだけでなく、それを超えて幅広い経済・社会・環境の課題に対応するものである。持続可能な開発目標(SDGs)は17あり、それらを実現するため169のターゲットが掲げられている。
17のSDGsのうち、特に、目標13:気候変動およびその影響の軽減、目標14:海洋・海洋資源の保全、持続可能な利用、目標17:実施手段の強化、グローバルパートナーシップの活性化などが海洋にとって重要である。
なかでも、目標14は、リオ+20で初めて取り上げられて注目を集めた海洋酸性化についてその影響の最小化を掲げるとともに、2025年までに海洋汚染の防止・大幅削減、2020年までに持続的な管理・保護により海洋・沿岸の生態系の回復、2020年までに過剰漁業・IUU(違法・無報告・無規制)漁業・破壊的漁業慣行を終了して科学的管理計画実施、2020年までに少なくとも沿岸域および海域の10%を保全、2020年までに過剰漁獲能力などにつながる漁業補助金の廃止、2030年までに漁業・水産養殖および観光の持続可能な管理などを通じて小島嶼開発途上国等の海洋資源の持続的な利用による経済便益の増大など、その多くに目標達成年限を明示している。リオの地球サミットの『アジェンダ21』第17章から始まった海洋の総合的管理と持続可能な開発に関する行動計画が、いよいよ本格的な実施段階に入ったことを示す行動目標の設定である。

海洋国日本の積極的参画を

このような動きを受けて、今年度に入ってもBBNJ準備委員会、SDGs関係会議、気候変動枠組条約・生物多様生条約の締約国会議などさまざまな会議等があちこちで開催されている。
BBNJについては、3月末から4月始めにかけて第1回準備委員会がニューヨークの国連本部で開催されたが、さらに8月末から第2回準備委員会が開催される。海洋酸性化については、5月上旬に第3回全海洋酸性化観測ネットワーク科学ワークショップが豪州・ホバートで開催されて世界から研究者等が参加した。海洋汚染の防止に関しては、6月中旬に国連本部で開催された今年の「国連海洋・海洋法非公式協議プロセス(UNICPOLOS)」が国際的関心事項である「海洋ゴミ、プラスティック、マイクロプラスティック」をテーマに取り上げて討議した。国連気候変動枠組条約の第22回締約国会議(COP22)は、11月にモロッコのマラケシュで、また、生物多様性条約の第13回締約国会議は、12月にメキシコのカンクンで開催される。さらに、2017年6月には、「持続可能な開発目標14:海洋・海洋資源の保全、持続可能な利用」の実行に関する国連ハイレベル会議がフィジーで開催されることが決まっている。
このように海洋に関する世界の取り組みは20年ぶりに大きく動き出している。海洋国日本は、このような状況をきちんと把握し、海洋ガバナンスの確立と新たな海洋立国のビジョンを胸に抱いて、それらに積極的に参画していく必要がある。(了)

  1. 3rd GOA-ON Science Workshophttp://www.goa-on.org/3rdWorkshop/

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