Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第383号(2016.07.20発行)

有人国境離島の機能を維持するための新法制定

[KEYWORDS]国境離島の重要性/有人国境離島法/地域社会維持
(公財)日本離島センター専務理事◆小島愛之助

わが国の国境域に位置する離島は、排他的経済水域の保全など国家的に重要な役割を果たしている。
今春、議員立法で制定された「有人国境離島法」は、これら有人国境離島の活動拠点機能維持を図るため、都道県計画に基づき、保全と地域社会維持に関するさまざまな施策を講ずることとしている。

わが国の離島が果たす重要な役割

わが国が漁業管轄権や海底資源の調査・採掘権などの主権的権利を有する排他的経済水域は約447万km2と、カナダ(約470万km2)に続き世界第6位の広さを誇っております。ちなみに、1位から4位までは、アメリカ(約762万km2)、オーストラリア(約701万km2)、インドネシア(約541万km2)、ニュージーランド(約483万km2)となります。わが国の国土面積は約37万km2でありますから、排他的経済水域の面積は国土面積のおよそ12倍を数えていることになります。そして、何よりも重要なことは、こうした広大な排他的経済水域がわが国を構成している6,852の島々(うち離島は6,847)によりもたらされているということです。
こうした海洋と離島との密接な関係や、離島が有する重要な役割を突き詰めて考えますと、この十数年間に起こっている事態は極めて懸念すべき事態であると言えます。旧くは北朝鮮の不審船問題から、韓国との間の竹島問題、中国との間の尖閣諸島問題、小笠原諸島沖の珊瑚乱獲問題、そして沖ノ鳥島の国際的な取り扱いの問題等々枚挙に暇がないでしょう。このうち、沖ノ鳥島を基点とする排他的経済水域は約40万km2、これはわが国の排他的経済水域全体の約1割であるとともに、わが国の国土面積にほぼ匹敵するなど、離島の存在が大きな意義を有しているわけです。

離島に人が住むことの意義

八丈島と八丈小島(手前)(写真提供:八丈町)

離島がわが国の領域・排他的経済水域の拠点であるためには、当然のことですが、人が住んでいるということの意義を考えなければなりません。じつは、わが国の離島振興の歴史の中には、結果として無人島をつくり出してしまったという悲しい経験があります。例えば、1969(昭和44)年の東京都の八丈小島や、翌1970(昭和45)年の鹿児島県の臥蛇島(がじゃじま)です。八丈小島は、人口流出による過疎化、生活条件の厳しさ、生活水準格差の拡大、子弟の教育に対する不安等を理由として、東京都の援助を受けて91名の住民が集団離島を行い、その後は長らく野生化したヤギだけが住む島となっていました。一方、臥蛇島は、築港の困難さ、人口減少、航路の不安定性等により、半ば国策として無人島となり、その後は野生鹿の棲家になっていました。
かつて有人離島であって、船の着岸が可能であった島が無人化することは、外からの不法入国の拠点にもなり得るという指摘もあります。空巣泥棒に狙われるのが留守で無人の住宅であることと同じです。こうした事例だけを考えてみても、島に人が住んでいることの意義、そのための振興施策の重要性は十分に理解されるのではないでしょうか。

有人国境離島法の成立

そのような問題意識の下、2016(平成28)年4月20日に議員立法で成立したのが、「有人国境離島地域の保全および特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」です。この法律が制定された経緯は4年前、2012(平成24)年6月の離島振興法改正に遡ります。前述したような周辺海域における脅威は、当時すでに現実のものとなっておりました。しかし離島振興法の対象は内海離島を含んでおり、同法に位置付けることは無理があるという判断がなされ、附則第6条にとくに重要な役割を担う離島の保全および振興に関する検討が盛り込まれたわけです。その後3年間、附則第6条の具現化に向けてさまざまな検討が進められました。そして、ようやく本年に入り、与野党の協議が結実して、新法が成立に至った次第です。

保全と地域社会維持のための施策

以下では、この新法の概要について述べてみたいと思います。同法の目的は、国境地域に位置する離島が持つ領海・排他的経済水域保全などの活動拠点の機能を維持することにあります。このため、有人国境離島地域を定めるとともに、そのうち地域社会を維持する上で居住環境整備がとくに必要であると認められる地域(15地域71島)を法文上に明記しております。
まず、有人国境離島地域全般については、保全のための施策について、国および地方公共団体に努力義務を課しております。具体的には、国の行政機関の施設の設置(第5条)、国による土地の買取り等(第6条)、港湾等の整備(第7条)、外国船舶による不法入国等の違法行為の防止(第8条)です。とくに「土地の買取り」については、重要な役割を担う離島地域の土地が外国資本により買収されようとする時、これに先んじて買取ることが想定されます。
次に、特定有人国境離島地域については、上記の保全施策に加えて、地域社会維持のための施策が明記されております。具体的には、航路・航空路運賃の低廉化に向けての特別な配慮(第12条・第13条)、生活・事業物資購入等に要する費用の負担軽減に向けての適切な配慮(第14条)、雇用機会の拡充と職業訓練の実施(第15条)、周辺海域での漁船操業費用の負担軽減に向けての適切な配慮(第16条)です。中でも雇用機会の拡充については、現状において、人口減少と高齢化が進んでいる離島地域の地域社会を維持し、活性化していくために必要不可欠な規定であり、起業や創業、事業拡大についての条件整備に適切な配慮を行うこととされております。
この新法は2017(平成29)年4月1日に施行されますが、同日付で内閣府に移管される総合海洋政策推進事務局(現在の内閣官房総合海洋政策本部事務局)が事務を所掌することになっております。施行後は、内閣総理大臣が策定する「基本方針」に従って、都道県が「(地域社会維持)計画」を策定し、その下で所要の事業が進められていくことになります。すなわち、予算措置等を含めて、緒についたばかりであり、今後新法の趣旨が発揮される具体化が図られることが望まれます。(了)

■有人国境離島法にもとづくおもな施策と実施主体

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