Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第383号(2016.07.20発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長)◆山形俊男

◆7月3日になってようやく台風1号がカロリン諸島付近に発生した。統計開始以来2番目に遅い。これまでで最も遅かったのは1998年で7月9日である。この年は今年と同様に太平洋ではエルニーニョ現象が終息し、ラニーニャ現象が成長しつつあった。インド洋には負のダイポールモード現象が発生していた。熱帯の海のこうした状況は、直近では2010年に見られ、猛暑による熱中症で1,700人以上もの人々が亡くなっている。今年も要注意である。
◆ところで7月は「海の月間」である。とくに第3月曜日は明治天皇が東北地方巡幸を終え、明治丸で横浜港に還幸されたことを記念して「海の日」に制定されている。総合海洋政策本部、国土交通省、日本財団はこの18日から20日にかけて"海と日本プロジェクト"を企画した。メインテーマは将来の海洋国家を担う海洋人材の育成とそのための海洋教育である。「海の日」には心新たに海の恩恵に感謝し、末永く海洋国日本の平和な繁栄を願いたい。
◆今号は「海の日」記念号として、寺島紘士氏に海洋管理に関する世界の取り組みについて俯瞰していただいた。国連海洋法条約における自由な公海の概念は17世紀初頭にグロティウスが出版した『海洋自由論』に起源を持つ。しかし、人類活動が地球システムの限界に近づき、地質時代区分に「人新世(Anthropocene)」を導入する動きさえもある今、公海にも管理の概念を取り入れる必要が出てきた。とくに海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用の面で、国家管轄権外海域にどのような法的拘束を組み込むかについて活発な議論がなされている。わが国は広大な排他的経済水域を持つが、高度な海洋調査、観測技術を持つ海洋科学先進国として、公海においても国連の「持続可能な開発目標」の実現に率先して貢献していくことが期待されている。
◆排他的経済水域の広さは離島の存在による。小島愛之助氏には離島の機能保全と振興をめざす「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」について、法案成立に至る経緯も含め、解説していただいた。新法による施策の成果は島嶼国家としての叡智を小島嶼開発途上国(SIDS)と共有するうえでも役立つであろう。
◆本号の最後のオピニオンは大和裕幸氏によるものである。海と空と港の安全に、より高度な技術で貢献すべく、長い歴史を持つ三研究所が合体し、(国研)海上・港湾・航空技術研究所が発足した。この統合研究所の役割について解説していただいた。革新的経営戦略、効率的な業務運営と財源確保、知の活用を促す産官学連携の開かれた場の形成など、国の研究開発機関の全てに共通する重要な課題である。国内の大学の世界ランキングの著しい低下に象徴されるように、わが国の研究力は急速に落ちている。これは通説となっている国際化の不足ではなく、論文発表数、論文引用度の大幅な低下が主因なのである。基盤的研究資金が減少するなかで、いかに研究力の低下をくい止め、国際競争力を持ち直すかが各方面で問われている。 (山形)

第383号(2016.07.20発行)のその他の記事

ページトップ