Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第371号(2016.01.20発行)

拡大を続ける太平洋上の西之島〜海上保安庁による海域火山観測〜

[KEYWORDS] 火山活動/海洋調査/管轄海域の画定
海上保安庁海洋情報部長◆春日 茂
海上保安庁海洋情報部地震調査官◆森下泰成

小笠原の西之島では2013年11月20日に噴火による新島の形成が確認されて以降、2年間もの長期に及ぶ溶岩流出により島が大きく拡大している。
海上保安庁は2015年夏に島の周辺海域の海底調査を実施し、噴出物の量において戦後最大級の噴火であることを明らかにした。日本の広大な管轄海域は火山島に支えられており、海域火山の観測は住民や航行船舶の安全に加えてわが国の管轄海域画定の観点からも重要な課題である。

日本周辺の海域火山観測

日本は世界有数の火山国であり、この1年間にも口永良部島、阿蘇山、桜島などの火山噴火のニュース映像が記憶に残っておられる方も多いと思われる。日本には活火山と認定された火山が現在110カ所ある。海上保安庁ではそのうち伊豆大島、三宅島、西之島、硫黄島などの南方諸島方面の27カ所、桜島、諏訪之瀬島、薩摩硫黄島など南西諸島方面の12カ所、計39カ所の火山を対象として監視・観測を行っている。航空機により南方諸島を年2回、南西諸島を年1回程度定期的に巡回監視しているほか、変色水発見などの火山活動情報が一般船舶等から通報があった場合には当庁の航空機により臨時観測を行い、必要に応じて航行警報等により船舶に周知している。
また、火山周辺の海底の基礎情報を整備するため、測量船により海底地形、地質構造、地磁気、重力等の調査を個々の火山について順次実施している。火山はそれぞれ個性を持っていることから、例えば、海底地形が分かればその火山の噴火の位置や様式の推測に役立つ資料となる。
これらの観測結果は火山噴火予知連絡会に報告し、火山専門家と情報共有を図っているほか、海洋情報部のホームページ上の「海域火山データベース」※において一般の方に向けて広く公表している。

測量船による西之島周辺海域の調査

■図1:無人調査艇によって明らかになった海底地形(上)の地形変化(下)

2013年11月20日に西之島から南南東約500mの海上に新島が誕生していることが発見された。それ以降、活発な溶岩流出により新しい陸地が拡大を続けてきた。航空機により毎月1回の頻度で観測を続けているが、海面下については情報が乏しいことから、2015年6月22日から7月9日にかけて測量船「昭洋」により西之島周辺海域の調査を実施した。噴火警戒範囲(島の中心から4km以内)の外側海域は測量船による海底地形や人工地震波による地下構造探査、内側海域は無人調査艇を用いて海底地形調査、採水、火山灰採取等を実施した。また、約半月の現場での観測期間中には、突然の側噴火の発生と山頂噴火の停止、その後の山頂噴火の再開といった現象など、航空機による毎月1回1時間程度の観測では捉えられない噴火活動の変化を確認することができた。
今回の調査で特筆されるのは、無人調査艇のマルチビーム音響測深機を用いた海底地形調査により、噴火開始以来まったく情報のなかった西之島火山の海面下の海底地形変化等に関する次のような科学的情報が得られたことである。
(1)海底地形の大きな変化は東部から南部に限定されており、溶岩などの噴出物の堆積により水深が数10m(最大で約80m)浅くなっている(図1)。
(2)地形変化から今回の噴火による噴出物の量は総体積約1.6億m3(総重量は全て溶岩と仮定して4億トン)と推定され、戦後では雲仙普賢岳の噴火に次いで二番目に多く、前回の1973〜1974年の噴火の約9倍に相当する。
なお、2015年12月22日に実施した航空機による最新の観測では、火口からの噴火や地表への溶岩の流出が停止して火山活動が低下していることが確認された(図2)。上空から計測した最新の島の形状は、東西約1,900m、南北1,900m、面積は約2.63km2であり、噴火前の西之島の約12倍まで拡大している。

■図2:最新の西之島の活動状況(2015年12月22日現在)

海域火山とわが国の管轄海域

火山島はわが国の排他的経済水域(EEZ)の基点となっているものが多く、領土の12倍にも及ぶ広大な排他的経済水域は火山島に支えられていると言える。そのため火山島の観測は管轄海域の確保の観点からも重要である。国連海洋法条約では「領海の幅を測定するための通常の基線は沿岸国が公認する大縮尺海図に記載されている海岸の低潮線とする」と規定されており、今後、西之島の火山活動が沈静化し安全が確認できれば精密な測量を行い海図を改訂し、領海・EEZを再設定することになる。西之島の拡大に伴って周囲の領海および島の西方沖のEEZの範囲は拡大することが見込まれる。最近の観測では火山活動の低下がみられるが、活動の終息まで引き続き西之島の活動の推移を注意深く監視していく必要がある。
西之島以外に特に注目される海域火山として福徳岡ノ場が挙げられる。福徳岡ノ場は東京の南約1,300kmにある南硫黄島付近の海底火山である。日本近海における最も活発な海底火山の一つであり、1986年の噴火では一時期800mの大きさまで新島が成長したが3ヵ月後には消滅した。この噴火を含め1900年以降少なくとも3回は噴火による新島形成が確認されているが、いずれも1年以内に消滅している。2005年および2010年の2回の噴火後に無人測量艇を使って海底地形等の調査を実施した結果、水深約25mのテーブル型の山頂部において変色水が湧出していた場所に新たな火口らしき窪みが形成されているのが発見されるなど噴火前後の地形の変化が明らかになった。
海域の火山は陸上の火山に比べて活動記録などの情報が限られており、過去に記録に残らないまま終息した噴火活動も少なからずあったであろう。わが国南方海域には福徳岡ノ場のように新島を形成する可能性のある海底火山も存在する。海上保安庁は今後も機動力を生かし関係機関と連携しながら海域火山観測を鋭意実施していく所存である。(了)

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