Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第371号(2016.01.20発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆スーパーエルニーニョがいよいよ最盛期となり、暖冬が続いている。日本周辺の海水温も高めに推移しており、大陸から寒気が入れば南岸低気圧が発達しやすい状況にある。このような状況の時には春先にかけて太平洋側に大雪が降ることがある。「あすからは 若菜つまむと しめし野に きのうもけふも 雪は降りつつ」(山部赤人)というようなことがありえるので、暖冬とはいえ注意が肝心である。
◆今号では、2年以上にわたって拡大を続ける西之島の周辺海域の調査結果について、春日 茂、森下泰成両氏に解説していただいた。すでに噴火前の面積の12倍にも成長しているという。EEZの再設定がなされれば、その範囲が拡大するのは確実である。世界の海洋底は玄武岩で構成されているが、この西之島はシリカを60%程度含む安山岩からなる。安山岩は大陸を構成する主成分であるから、科学的にも興味深い火山島である。わが国が広大なEEZを持つのは火山島が分布するからであり、周辺海域の調査研究を宇宙からの観測と連携して、効果的に行う体制を強化することが重要である。
◆ところが、わが国は海洋の調査や研究に従事する船舶の老朽化に加えて、資金減から航海可能日数が大幅に減少するという危機的な事態に直面している。これは海外からも国際共同研究の面から危惧されている。組織の枠組みを超えて連携し、観測機器などを共同利用する動きもあるが、国として抜本的な海洋の調査研究体制を構築する必要があるのではないだろうか。
◆そのような中で朗報もある。海面で休息、採餌する野鳥や海洋生物に負荷の少ない海洋観測機器を担ってもらうバイオロギングの技術が進み、衛星経由で観測データをリアルタイム予測シミュレーションに同化する可能性が示されたことである(http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20151203/)。これはゆくゆく海洋環境生態系と社会をつなぐIoT(モノのインターネット)に発展するかもしれない。折しも、船舶搭載機器からのビッグデータとインターネットを結ぶ海事IoTについて、諸野 普氏に寄稿していただいた。海事IoTは多様なリアルタイムサービスを開拓するだけでなく、ビッグデータの分析から、より効果的なシステム設計にも有効である。データとアプリケーションソフトの標準化で国際規格を確立することは舶用分野におけるわが国の国際的優位性をソフト分野にも拡張し、強化することになる。新時代を切り開くものとして注目していきたい。
◆最後のオピニオンはガラス作家として活躍されているKristin Newton氏によるものである。たまたまお話しする機会があり、北極圏探検家として著名なヴィルヤルマー・ステファンソンのご親族であることを知った。昨今、地球温暖化の影響が顕著に現れる北極圏の危機と好機に世界が注目している。このような時にこそ歴史を振り返るべきであろう。ステファンソンの生涯から持続可能な開発はいかにあるべきか考えたい。(山形)

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