Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第371号(2016.01.20発行)

船舶のビッグデータ活用〜スマートナビゲーションシステム研究会の活動紹介〜

[KEYWORDS] 国際標準規格化/スマートナビゲーションシステム研究会/船内LAN
寺崎電気産業(株)シニア・アドバイザー◆諸野 普

(一社)日本舶用工業会スマートナビゲーションシステム研究会は船舶搭載機器などから収集されたビッグデータを活用するための基盤となる海事IoT(Internet of Things)技術の開発とその国際標準化を主な目的として活動しているが、ここではその基盤を応用して実現する船舶のビッグデータ活用について解説する。

オープンな船陸間情報プラットフォーム開発を行うためのプロジェクト

(一社)日本舶用工業会スマートナビゲーションシステム研究会(筆者は幹事長)は、船舶搭載機器などから収集されたビッグデータを活用するための基盤となる海事IoT(Internet of Things)技術の開発とその標準化を主な目的として2012年12月に設置された。研究会は2015年3月に第一期の活動を終了し、引き続き第一期の活動成果をもとにした実用化のための諸活動の実施、国際標準規格化の完成などを目標に2015年8月、研究会の再編成を行い2018年3月の完了を目標に活動中である。
IoTとは身のまわりにあるモノにセンサーが組み込まれ、それが直接インターネットにつながる世界を表す言葉であるが、これは今、GE社の経営戦略「インダストリアル・インターネット」やドイツの産官学共同国家プロジェクト「インダストリー4.0(第4次産業革命)」が提唱するものづくり革命の重要な要素として注目を集めている。海事分野においてもIoTを活用してさらなる安全性の向上、環境保護(GHG(温室効果ガス)削減など)および効率的な運航を実現することが重要となってきた。
海事IoTは、船舶搭載機器やシステムから得られた航海、機関、船体・貨物などのデータが海事衛星等の通信手段を通じて陸に送られ、陸上に張り巡らせられたインターネットを介してそれらのデータを活用することにより、予測できない機械停止を減らす、操船時のエネルギー効率を高める(GHG排出削減)、メンテナンスコストを低減するなどのほか、広く海事ビジネスの革新を目的としたものと考えることができる。

船舶のビッグデータ活用

■図1:船陸情報通信プラットフォームのイメージ

海事IoTのもととなるデータは定型、非定型、定時、非定時、そして大量なデータであるという意味でビッグデータと言える。船舶ビッグデータとしては自動、手動で収集された航海データ、メンテナンスリポート、機械データ、AIS(自動船舶識別装置)、VDR(航海情報記録装置)等が発する航海データ、気象データおよび積荷情報等を含むビジネスデータなどがあげられる。
IoTでは、センサー等で計測されたデータをネットワークや情報技術を使用して蓄積し、そのビッグデータを対象にビジネス知識に基づいた分析を実施、状態を認識、意志決定し、アクションする、というプロセスを経てビジネスに活用される。海事IoTの目的を達成するためには、機関部コンディションモニタリング、ビッグデータ分析、サービスエンジニア支援、自己診断等の機能が必要となり、これらはビッグデータをもとに解析を行うアプリケーションソフトが提供することになる。
図1は船舶のビッグデータを活用するための船と陸を連接した情報通信プラットフォームの概念を示している。図左端に示す船舶搭載機器はIoTモデルにおけるセンサーの役割を果たす。それらのセンサーから船内LANシステムを経由して定時、非定時に収集されたデータは船上データサーバに蓄積される。船上データサーバはIoTゲートウエイの役割を担い、これと陸上データセンターに設置されたサーバとの間で適宜、データのやりとりを行う。船上データサーバに蓄積された"生(なま)"のデータ、または所定の処理が行われたデータは、定期、不定期に船陸通信のトラフィック制御を行いながら陸側にアップロードされる。もちろん、陸側から必要な時に必要なデータを船上データサーバに要求し取得することも可能である。図右端に示すユーザーはアプリケーションサービス提供会社が提供する解析、診断等を行うアプリケーションソフトを使用することにより対応業務を行う。船上および陸上サーバ内のデータアクセスに際してはセキュリティ保護がなされるほか、データ使用権の制御も行われ、使用権のないユーザー(アプリケーションソフト)へのデータ提供はなされない。

海事IoTの国際標準規格化とその狙い

船舶のビッグデータ活用を円滑に行うためにはその基盤として、データが標準化され、蓄積されたデータを活用するためのアプリケーションソフトに対して標準化されたインタフェースが提供される必要がある。そのため研究会ではこれを2つの国際標準規格案に分けてISOに提案した。
1.ISO19847 - Shipboard data servers to share field data on the sea(実海域データ共有化のための船内データサーバ) 航海系、機関系、その他の系統の実海域データについて、時間軸をそろえた形で共有するために設けられるデータサーバの諸要件を定義する。
2.ISO19848 - Standard data for shipboard machinery and equipment(船舶機関および装置のデータ標準)船舶搭載機器間、あるいはシステム間でやり取りされる各種データを標準化することにより、機器やシステム間の連接利便性を向上させる。
これら国際標準規格化における狙いや留意すべき点は以下の通りである。
(1)実海域における船舶データの共有化を可能にすることにより安全運航、効率運航に資するためのアプリケーション提供を容易にする。(2)実海域における船舶性能データをもとにした高効率新造船設計を容易にする。(3)垂直分業化しているわが国舶用工業製品の国際競争力を増す。(4)規格を武器に実海域船舶運航データをもとにした新たな船舶情報分野でのビジネス展開を狙う。(5)規格化における最留意点は関連規格(e-Navigation 関連規格など)とのハーモナイズである。
幸い、多くの国々から規格化作業の着手に賛同を得ることができ、研究会では現在、詳細な規格内容を策定中である。この標準化されたインタフェースを適用したアプリケーションソフトを使用することにより、ユーザーはその場面毎に、必要となる機能を有するソフトを容易に使用できるようになる。また、その変更や更新についても容易化することが可能となる。

Change way of working

■図2:海事分野におけるIoTの活用

船舶のビッグデータを活用したユーザー毎の事例を表に示す。これらのサービスの中には現在既に実用化されているものもあり、中・短期的な実現が期待されている。しかし、冒頭にも述べたようにIoTはモノづくりにおける革命を狙ったキー技術であるのと同様に、海事分野におけるIoTの活用、ビッグデータの活用も、従来のビジネス目標を超え、中・長期的には海事産業における働き方そのものの変革をもたらすものと期待される。
今後もこれら取り組みを通して、国際的プレゼンスをより一層高め、日本の海事産業の発展とともに、海洋分野における貢献を担っていきたい。(了)

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