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オーシャンニュースレター

第335号(2014.07.20発行)

第335号(2014.07.20 発行)

世界で唯一「海の日」を祝日とする国として~学習指導要領に「海洋教育」明記を~

[KEYWORDS]海洋教育/政治家の役割/人材育成
日本財団会長◆笹川陽平

人類が海洋に与える影響が、かつてないほどに大きくなっており、それが引き起こす海洋環境の変化が、直ちに人類の生存の問題に跳ね返ってくる時代になっていることを私たちはもっと認識する必要がある。
学校教育の中においても海洋に関する様々な知識、技能、判断力等を子供の時から身につけていくということが重要であり、学習指導要領の中に海洋教育をきちんと位置付けることが必要と考える。

海洋の適切な管理が人類生存の鍵

世界に国連加盟国は193カ国ありますが、海は一つしかありません。この海では昨今、EEZの管理の問題を含め、様々な問題が顕在化してきています。私は、21世紀の今、海洋の管理をどのようにやっていくかが人類生存の鍵を握っていると思います。
地球上の人口はすでに70億人を突破しました。100億人になるのもそう遠くないでしょう。果たして水の惑星‐地球がいったいどの程度までの人口を支えられるのか。その人口の増大により様々な影響が出ています。温暖化の問題。海洋汚染。漁業についてもいまのような国際的に無統制な乱獲が続けば30年を経ずして深海魚のような魚しかいなくなってしまうという識者の意見もあります。また、海底資源の掘削も、陸地から何百キロも離れ、水深何千メートルにも達する海底で行われるようになってきました。人類が海洋に与える影響が、かつてないほど大きくなっており、それが引きおこす海洋環境の変化が、直ちに人類の生存の問題に跳ね返ってくる時代になっていることを、私たちは深刻に認識する必要があります。

海洋教育の推進のために学習指導要領に「海洋の教育」明記を

全ての生物は海から生まれてきました。海は、「母なる海」と言われ、また、「海洋立国」とか「海に囲まれた日本」という言葉もよく聞きます。しかし、国民一人一人は、海洋がどのようなものであるのか、どういう状態であるのか、人間生活にどのように関わりがあるかということについてほとんど知らないと言っても過言ではありません。日本の学校教育でこの大切な海洋についてしっかりとした教育がなされていないのは大きな問題です。
日本は、世界で唯一「海の日」を祝日とし、2007年には海洋基本法が制定され、「学校教育及び社会教育における海洋に関する教育の推進」が同法に基本的施策として明記されました。にもかかわらず、海洋教育はほとんど実施されていないのが現状です。未来を担う子供たちに、美しい水の惑星を引き継ぐためにも、単に物資を運ぶ海上輸送とか、海水浴での渚の生物の観察というレベルにとどまらず、海洋の利用が増大してそれによるリスクの多様化が進行してきている現在の状況を踏まえて、学校教育の中で海洋に関する様々な知識、技能、判断力等を子供の時から身につけていくということが喫緊の重要な課題だと思います。
そのためには、学習指導要領の中に海洋教育を位置付けることが大変重要です。学習指導要領の改訂については、中央教育審議会への文部科学大臣の諮問が間もなく行われると聞いていますので、是非とも海洋教育を学習指導要領に明記し、教科書で採り上げるようにするために、政治家、文部科学省、教育関係者、有識者等に海洋教育の重要性について理解していただくよう強く要望していくことが重要です。私は、目下、何としても中教審の答申の中に海洋教育を盛り込むべく、懸命の努力をしております。

■『学習指導要領に「海洋教育」を位置づける必要性』

日本財団「海洋教育戦略会議」※は、次の学習指導要領において海洋教育を位置づけるため、2014年4月に以下の提言を行った。(骨子のみ抜粋)

1. 学習指導要領の総則に「海洋の教育」もしくは「海洋」と明記すること。
2. 学習指導要領の「総合的な学習の時間」の学習活動の例示に、「海洋の教育」もしくは「環境(海洋を含む)」と明記すること。

※ 海洋教育戦略会議=学校教育における海洋教育の推進策を議論する場として日本財団が2013年に立ち上げた有識者会議。笹川会長が座長を務める。

総理と総合海洋政策本部はリーダーシップ発揮を

海洋基本法が制定され、官邸の中に総合海洋政策本部が設置されました。本部長は内閣総理大臣です。日本は、世界で唯一「海の日」を祝日とする国ですから、安倍総理には海洋の安全管理を積極的平和外交の一つの柱とするとともに、海の日には、海洋教育の推進など、日本人と海との関わりについて総理大臣声明を出すことを強く望みます。アメリカでは海の日は祝日ではないのですが、毎年、大統領が声明を出して海に対する国民レベルの認識を高めています。
また、総合海洋政策本部におかれては、海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進するために設置された経過や理由を今一度認識されて、存在感のある本部に成長してもらいたいものです。

私たち自身も行動を

相模原市立内郷小学校、山間の小学校で海を学ぶ
(提供:東京大学海洋教育促進研究センター)

一方、政府に期待するだけではなく、私たちも積極的に活動する必要があります。政治家や文部科学省をはじめ、教育関係者やメディアに対してこのことを要望していくことが重要です。海洋には、海運、造船、港湾、水産等の海洋産業、海洋調査、海洋環境その他の研究所、水族館、博物館、NPOなど、多くの組織や人が関係しています。私たちも、その専門分野をわかりやすく子供たちに理解させる活動を通じて学校における海洋教育の補完をする必要があります。人材の育成が必要であることは言うまでもなく、より広く子供たちに海洋に関心を持ってもらうために、海洋の教育の実践を重ね、大きなうねりをつくりだす一役を担っていただきたいと思います。
海洋に関する人材育成について言えば、わが国では、大学教育も、また産業界の取り組みも十分とは言えません。造船、海運という海事産業だけでなく、石油掘削、メタンハイドレートにしても海底資源の掘削技術では日本は大変たち遅れています。官民一体の協力体制が望まれるところです。(了)

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