Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第335号(2014.07.20発行)

第335号(2014.07.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆この夏は不順な天候が続いている。太平洋の赤道域では暖水が東方に移動し、2009年以来のエルニーニョ現象が成長しているが、一方で台風発生海域として名高いフィリピン東方には暖水が10数年にわたり蓄積している。数年に一度くらいの頻度で発生する経年変動現象と10数年継続する現象の組み合わせが季節予測を難しくしている。しかし偏西風の蛇行に伴う寒気の流入で当面は大気の不安定状態が続くであろう。気象情報に注意を怠らないようにしたい。
◆7月21日は海の日である。これは明治天皇が明治9年の東北・北海道巡幸に際し、スコットランドのグラスゴーで建造された灯台船「明治丸」に乗船され、7月20日横浜港に帰着されたことを記念するものだ。本誌287号でマイク・ガルブレイス氏は「明治丸」の劣化状況を危惧される論考を寄稿されたが、幸い、一般からの寄付金に加えて、国の補正予算がつき、修復工事が進んでいる。来春には東京海洋大学の越中島キャンパスで再びその優美な姿を披露するということで、今から楽しみである。
◆今号には、この海の日を記念して本ニューズレターの創始者である日本財団会長の笹川陽平氏にご登場いただき、人類生存の鍵を握る「母なる海」の大切さを早期に教えることの大切さについて寄稿していただいた。海の環境を守り、その恵みを未来世代に伝えるには海洋教育を学習指導要領の中で明確に位置づける必要がある。私たちすべてが海のステークホールダーであり、かけがえのない水惑星を守るのは地球人としての倫理とも言えるのではないだろうか。海洋国家の範として世界に先駆ける総理メッセージを期待したいものだ。
◆今年は国連海洋法条約が発効して20年の記念すべき年である。奥脇直也氏には、この間に明らかになった条約の綻びについて専門家の立場から解説していただいた。海の環境と資源の活用とをいかに調和させていくか、海からの恵みを未来世代に伝えるにはどうすればよいのか、国家の管轄権の線引きのなかで沿岸国と海洋利用国のバランスをどう取るのか、一つ一つが国際問題であるが、身近な問題でもある。海洋の有効管理の第一歩は、「海洋に関する人類の科学的知見を増やし、情報を共有することにある」とする氏の結論は示唆に富む。情報共有の一つの有効な手立てが笹川氏の力説される海洋教育であろう。
◆今号の最後を飾るオピニオンは熱帯海洋のフィールド研究がご専門の柏野祐二氏にお願いした。エルニーニョ現象などの厳しい現場観測の中で出会った、一服の清涼剤とも言える空と海が織りなす素晴らしい光景を美しく描いていただいた。海を知ることは海に魅せられることでもある。(山形)

第335号(2014.07.20発行)のその他の記事

ページトップ