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第330号(2014.05.05発行)

第330号(2014.05.05 発行)

長崎県における海洋再生可能エネルギーへの取り組み

[KEYWORDS]海洋再生可能エネルギー/海洋産業クラスター/地域活性化
長崎県産業労働部海洋産業創造室◆高岡鋭滋

長崎県では、国の目指す「環境負荷低減と経済成長の同時実現」や「地域活性化にもつながる循環型社会・自然共生社会の実現」などについて、先導的な「ナガサキ・グリーンニューディール戦略プロジェクト」を推進、戦略プロジェクトを構成する6つのプロジェクト群の一つとして「海洋フロンティアプロジェクト」を位置付け、海洋再生可能エネルギーの導入促進を通じた海洋産業を育成するための施策を実施している。

長崎県の特長

長崎県は、4,184キロメートルの海岸線延長(北海道に次いで全国2位)、594の島、広大な海域面積を有する海洋県である。世界で3例目、わが国では初めてとなる浮体式洋上風力発電の実証地域とされるなど、長崎県における海洋再生可能エネルギーのポテンシャル(洋上風力発電、潮流発電等)は国内外から高く評価されており、長崎県内ではすでに産学官による種々の技術開発や実証事業が行われているなど、今後の海洋産業の拠点としての発展が期待されている。
海洋再生可能エネルギーの技術開発においては、造船分野で培われた大型機械加工組立、浮体構造、耐水耐圧、水密性、防汚染技術等の活用が可能である。4兆円産業となっている日本の造船業のうち、長崎県は5,218億円の規模を有し、全国の12.7%のシェアを占め、造船関連の製造品出荷額は全国第2位の位置にあり(出典:平成22年工業統計)、三菱重工業(株)長崎造船所(長崎市)、佐世保重工業(株)佐世保造船所(佐世保市)、(株)大島造船所(西海市)を始めとする造船関連産業の技術・施設が集積している地域である。
また、長崎県は平成25年2月に「ながさき海洋・環境産業拠点特区」(内閣総理大臣指定・地域活性化特区)として指定され、造船・海洋・環境エネルギー分野の振興により地域の活性化を、国とともに全国に先駆けて進めていく地域となっている。
一方、国際的な海洋利権の争奪が加速する中、長崎県の島々はわが国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、海上交通の安全の確保などにおいて、海洋政策上、非常に大きな役割を果たしている。国境周辺離島においては、そこに人が住み、経済活動を行っていること自体が、「現代の防人」として国益にも直結している。長崎県の全部離島※3市2町の人口は、ピーク時(昭和30年)の27万9千人から、12万9千人(平成22年)と54%減少しており、さらに国立社会保障・人口問題研究所による平成25年3月の推計では、平成52年には7万人とされている。このまま離島の人口減少に歯止めがかからなければ、高齢化が進行し集落の維持に支障をきたす離島の増加が懸念され、離島が担う国民的・国家的役割を果たすことができなくなるおそれがある。このような状況を打開するためには、定住促進や雇用の確保などに対する、より強力な施策を行うことが必要であり、海洋再生可能エネルギーに関する施策はその重要な役割を担うものと言える。

海洋再生可能エネルギー実証フィールド

■環境省洋上風力発電実証事業 
 浮体式洋上風力発電実証機(2MW)
 (五島市椛島沖)

■実証フィールド提案海域(長崎県)

長崎県は、五島市および西海市の海域が浮体式洋上風力発電および潮流発電の実証フィールドとして選定されるよう、国の総合海洋政策本部に対して提案を行っている。環境省の洋上風力発電実証事業(五島市椛島沖)が実施されるなか、身近に接することができることもあり、漁業者の海洋エネルギーに対する理解は年々深化している。実証フィールドの誘致に際して関係するすべての漁業協同組合から同意書を取得するなど、漁業者との関係は非常に良好である。複数の企業から長崎県で実証したいとの意向が示されており、実証フィールド利用者も確保されている。また、2003年にイギリスのオークニー諸島に設立された実証フィールド「欧州海洋エネルギーセンター(EMEC)」とは相互交流を行いながら、立上げ・運用のノウハウ取得に努めており、海洋再生可能エネルギーの技術開発や導入を促進するための基盤も徐々に整ってきている。
今後は、実証フィールドとして選定されることを前提に、実証フィールド運営主体の設立・体制の確保や、地域協議会(地元市町が開催)を活用した支援体制の整備等充実した事業環境を構築することとしている。

長崎県内の産業界・大学の取り組み

長崎県内の産業界・大学は、それぞれ、海洋エネルギー分野における産業の活性化および研究開発に積極的に取り組む姿勢を見せている。
長崎では、長崎商工会議所、長崎経済同友会、長崎県経営者協会、長崎青年会議所、長崎大学、長崎県、長崎市のトップにより構成される「第8回長崎サミット」が平成26年2月に開催され、海洋クラスターの研究開発や事業化促進に一丸となって取り組むことが確認されたところである。
県内産業界では、今後、海洋クラスターの研究開発や事業化促進のための体制を構築し、共同受注体制の構築や受注活動に取り組むこととしている。
大学においても、長崎大学が工学研究科を中心に、水産・環境科学総合研究科、経済学部、教育学部等との連携のもと、海洋エネルギー技術研究グループ(仮称)を組織し、海洋再生可能エネルギーに関する研究、教育を強化していくこととしている。また、長崎総合科学大学においては、既に風力発電装置の開発や、「緑の知の拠点事業」として文部科学省から補助を受けて潮流発電装置の開発にも取り組んでいる。

長崎県が目指すもの

長崎県の海域が浮体式洋上風力発電および潮流発電の実証フィールドとして選定されることを契機として、海洋再生可能エネルギーの実用化・商用化を推進するとともに、長崎県の有する重層的な造船産業とも連携しながら海洋再生可能エネルギー関連産業を集積し、海洋産業の拠点を形成させて、国際競争力のある産業を育成していく。具体的には、2025年から2030 年までに洋上風力および潮流発電の世界的な技術開発拠点として「長崎海洋産業クラスター」を形成することを目指し、そのためのロードマップの作成や、拠点港湾など産業拠点的機能について検討を始めたところである。
このようにして、海洋産業クラスターを形成することにより、海洋再生可能エネルギー開発を通じたわが国エネルギー問題解決、国際競争力の向上によるわが国経済再生へ貢献するとともに、離島地域における定住促進や雇用の確保を図ることを通じて、長崎県は、離島が有する国民的・国家的役割を引き続き保全することを目指していきたい。(了)

※ 全部離島=市町村のすべての離島地域を示す。H22国勢調査では全部離島は33市町村(83離島からなる。)

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