Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第330号(2014.05.05発行)

第330号(2014.05.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆長崎県は対馬海峡と東シナ海をはさんで、古来より大陸とのつながりの深い位置にある。大陸からの影響は歴史や文化だけにみられるのではない。黄砂、酸性雨、最近ではPM2.5の影響をもろに受ける。これらの悪名高い使者を運ぶのはすべて風である。長崎県は大陸からの風を逆手にとって利活用するプロジェクトを進めている。長崎県産業労働部海洋産業創造室の高岡鋭滋氏によると、県は海洋再生可能エネルギーの実証フィールド誘致に向けた官民学の全県的な取り組みを進めているということだ。2011.3.11の大震災以降、日本が進めるべきエネルギー政策は転機をむかえている。それだけに、長崎県の取り組みが地の利を活かしたものであるという以上に、国家の戦略的なプロジェクトとして進められるよう祈りたい。本プロジェクトは大陸を強烈に意識したジオ・ポリティックスの一手になるといえば言い過ぎか。
◆長崎県と接する佐賀県の伊万里は陶磁器で有名なまちである。黄砂やPM2.5は空からやってくるが、いまから700数十年前、蒙古帝国のフビライ汗の大軍船団が海を越えて襲来した。いわゆる「文永・弘安の役」のことで、弘安の役で蒙古軍は伊万里の面する伊万里湾に集結した。大暴風雨により、14万人もの蒙古軍兵士の7割が壊滅したとされる。まさに神風とはこのことを指す。日本の歴史にのこる重要な史実でありながら、用いられた蒙古軍船についてあまりにも謎が多かった。ところが、『蒙古襲来絵詞』からは想像もできない全長27mもの大型軍船が用いられたことがつい数年前の2011年にわかった。東海大学海洋学部の根元謙次教授は2005年以来、海底探査調査を試行錯誤するなかで進め、元寇船が軟弱な泥のなかに埋没していることを音波探査により突きとめた。しかも、伊万里湾内の底層部から、7,300年前に大噴火した鬼界アカホヤ火山灰を検知し、その上部の堆積層の厚さを逆算した。そして、弘安の役の時代は海底面から約0.5~1.0mにあることを突き止めた。ちなみに鬼界アカホヤ火山灰は偏西風に乗って東北にまで達している。今後の調査の進展と歴史の謎が解明されることを大いに期待したいものだ。
◆ワクワクついでに、南の島から嬉しいイルカの話題をブリヂストンフローテック株式会社の加藤信吾氏から頂戴した。沖縄の美ら海水族館で病気のため尾びれを切断されたイルカのフジがいた。加藤氏は依頼を受けて、製作したゴム製の人工尾びれをフジに何度もつけかえたがうまくいかなかった。挫折感のなかから努力を重ね、最後はフジが跳躍できるまでになった。この物語の「主治医」であった加藤氏がご自分の企業、イルカ造形作家、水族館関係者ら多くの人びととのチームワークによってイルカを復活させたことに心を打たれた。この物語は2007年に講談社青い鳥文庫として刊行されている。暖かい春の風が南の海から吹いてきた思いだ。(秋道)

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