海洋に関する情報発信

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第110号(2005.03.05 発行)

サーフライダーによる海岸保全の世界的なうねり

サーフライダーファウンデーション・インターナショナル準備委員会◆上田真寿夫

今では世界中に広がっているサーフィン愛好家。
その中から、フィールドである海岸線の環境保全を訴えるサーフライダーファウンデーションが発生した。
その活動使命はサーファーだけの利益を代弁するものではない。
自然の海岸線は地球人全員の財産である。
そして、その場所を守り、未来世代に引き継ぐためには、すべての市民セクターの参加が不可欠である。

はじめに

ポリネシア系先住民から始まったサーフィンは、今では波がある場所ならば、世界中どこでも行われるようになっている。しかしその実態は時代が変わっても風、うねり、海岸地形、潮の干満という自然要素の微妙なバランスの上に成り立っていて、自然依存度が極めて高い。そのためサーファーはフィールドである海洋環境や海岸線の変化について、誰よりも敏感に反応する。 サーフライダーファウンデーションはそのようなサブカルチャーから生まれた。そしてその空間的広がりは、日本の海岸線保全のあり方についての指針を与えてくれる。

サーフィンの魅力とは?

18世紀の末、ジェームス・クックが太平洋の島々を巡り、先住民が板切れの上に立ち、波の上を自由に滑走する姿を見て、その驚きを日誌に記したことが、西洋史に刻まれた最初の「ヘルナル」(=サーフィン)の記録だそうだ(ヘルとはハワイ語で「滑る」ナルとは「波」のこと)。この発見は後のキリスト教布教を旗頭とした植民地支配の足がかりとなる。象徴的な出来事として、ハワイのカメハメハ王朝は宣教師をルーツに持つ資本家のクーデターによって滅ぼされ、1898年にはアメリカに併合されてしまう。クックの発見から約120年が過ぎた出来事だ。先住民が楽しんでいた「ヘルナル」は宣教師の入植とともに、禁止されていた。彼らは先住民の伝統文化や儀式を邪教として排斥し、「フラ」(ハワイ語で「踊る」の意味。神への礼拝の際に奉納されていた踊りの総称)や「ヘルナル」もこれに該当した。そのような宗教的価値観の違いと同時に、プランテーション労働に代表される資本家による搾取システムの視点から見ても、波次第の「ヘルナル」ほど非効率なものはない。

「ヘルナル」がサーフィンとして復活するのは20世紀を待たなければならない。オリンピック100m自由形の金メダリスト、デューク・カハナモクは、ハワイ文化の親善大使も務め、世界各地でサーフィンのデモンストレーションも行った。それは、第二次世界大戦後に始まるサーフィンの世界的な普及の先駆けとなった。

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日本の海岸で最初にサーフィンを楽しんだのは、戦後の駐留アメリカ兵で、湘南や千葉の海岸で目撃されている。日本人による取り組みは60年代初旬。1965年にはサーフィン競技の普及を目指して日本サーフィン連盟が設立された。

サーフィンが何故、人々を魅了し、世界中に広がったのか? それを簡潔に文章化することは難しいが、サーフィン未経験者の方にその実態と魅力の一端を知っていただくツールとして、サーファーの生態を的確に写したドキュメンタリームービーを紹介する。「エンドレスサマー」(1964年)、その続編「エンドレスサマー?」(1994年)、ともにブルース・ブラウン監督作品。これらは限定されたサーフィン先進地の映像にとどまらず、サーフィンが根ざしていない地域の映像も収められていて、その空間的広がりを実感できる。2003年に発表された「ステップ・イントゥ・リキッド」はブルースのスタイルを息子のダナ・ブラウンが引継ぎ、21世紀の記録として発表したものだ。そこには、フィールドとしては考えられないような湖に集まるサーファーたちや、事故によって下半身不随になった友人のサーフィン挑戦を手伝う仲間の姿が納められている。「サーフィンとは何か? 何が人を魅了するのか?」という問いかけに最もよく答えてくれる。

世界の沿岸域管理の実態

サーフライダーファウンデーションは1984年にカリフォルニアでスタートした環境NGOで、「誰もが自由に、安全に利用できる自然のままの海岸を残すこと」を使命としている。サーフィンの空間的広がりに比例して、90年代に入るとオーストラリア、ヨーロッパ(フランスを中心に)、ブラジルそして日本に地域拠点を置く。

90年代後半からは世界ネットの情報交換も始まり、地域の活動報告を共有している。その中から特徴的な沿岸域管理の実態を抜き出すと、

サーフライダーファウンデーション・ジャパン
サーフライダーファウンデーション・ジャパン=日本の沿岸域に広がるメンバーネットワークを通じて海岸環境問題に取り組む。主な活動は、環境教育、水質モニタリング、海浜変化についての調査・提言など。詳しくは、ホームページ
http://www.surfrider.jp)をご参照ください。

◎オーストラリアのcoastal council 、カリフォルニアのcoastal commissionのような組織は海岸での問題解決(侵食、水上バイクの利用規制など)のための調整機関として市民への情報公開を行い、議論への参加を促進している。

◎フランスやオーストラリアでは沿岸域の開発や海岸事業にはすぐには着手しないことが原則となっている。

◎沿岸域の総合管理という考え方は常識で、縦割りの行政による利害の対立は少ない。さらに、どの国の海岸状態も日本と比べると自然海岸の残存率は極めて高い。また、管理システムの特徴と同時に市民の社会参加も際立って高い。

◎サーファーにとどまらず、市民の社会参画の意識は高く海岸会議などへの関心が強い。

◎市民の環境NGOへの参加率が高い(サーフライダーだけでなく、他の団体のメンバー数の多さからも推測できる)。

なお、市民という言葉の定義は日本では研究者や企業人はそれに含まないような思い込みがあるが、海外では決してそうではなく、大学の研究者であれ、土木コンサルタントの技術者であれ、まず誰もが市民であるという誇りを持っていて、個人が持つ知識を公共利益に還元することこそ、責任であり義務だと強く認識されている。そして、そのような貢献の社会的評価も高い。

海岸保全の協同作業に向けて

日本では、海岸線保全の解決の糸口を法律も含めたシステム的なものへ求める意見をよく聞く。一方、海外ではシステムの確立と同時に市民参加の機会も担保されていて、参加の重要性を社会が認めている。社会が認めているという部分を拡大して考えると、日本の場合は海岸線保全の技術的限界や砂の移動メカニズムなどのソフトウエアの共有もまだまだ不十分ではないだろうか。その溝を埋めるためには、特定のグループだけに頼るのではなく、海が好きだ!という研究者、企業人、行政管理者のすべての協同が不可欠だと感じる。

サーファーは海の魅力を自分たちの経験からしか表現できませんが、海の魅力をスピークアウトする、みなさんひとりひとりの自立を期待しています。(了)

【参考文献】

山中速人(1993)「ハワイ」岩波新書

清野聡子・宇多高明・高橋功・芹沢真澄・星上幸良・内木場俊(2004):「千葉県鴨川市海づくり会議での地域資料と数値計算の統合化による海浜環境変化の検討」海岸工学論文集、第51巻、p.486-490

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