【2024-25 SPF-APSA 米国議会フェローレポート】
議会内に残る多様な意見-大統領による政策推進に向けたプレッシャーの中で
深尾健太
2024年度SPF-APSA米国議会フェロー(2024年9月~2025年8月)。
米国連邦議会下院の共和党議員事務所にて外交政策フェローを務めた。
衆議院事務局に在籍。同事務局及び在米国日本大使館等での勤務を経て、本フェローシッププログラムに参加。
選挙後の新たな政治状況の中で
私がSPF-APSA米国連邦議会フェローとして活動する機会を得た2024~2025年の期間は、大きな変化が起こる米国政治を最前線で体験できる絶好のタイミングであった。2024年11月の大統領及び議会両院選挙の結果、共和党は大統領及び議会両院をおさえるいわゆるトライフェクタ(Trifecta)を実現することとなり、新政権のもと大幅な政策変更が起こることが期待と不安をもって受け止められていた。第二次トランプ政権は、2025年1月の発足直後から不法移民対策の強化、エネルギー政策の転換、対外援助の見直しなど「アメリカ・ファースト」の理念の下、新たな政策を矢継ぎ早に打ち出していった。こうした政策の実現には、議会が持つ予算編成権と立法権の裏付けが必要となるものも多く、議会としてどのような議論を行い、具体的な成果につなげることができるのか、議会への注目とプレッシャーが否応なく高まっていた。私がフェローとして約8か月にわたり米国議会で勤務したのはこうした環境の中での下院の共和党議員事務所であり、議会共和党が大統領の掲げる新たな政策とどのように向き合っていくのか、そのダイナミズムを間近に体験することとなった。
フェローとしての業務を通じて
では、トランプ大統領が外交政策においても大幅な方針転換を掲げる中、下院外交委員会での共和党議員の議論の状況はどのようなものであっただろうか。当選直後の大統領が掲げる政策に全面的に賛同するものであっただろうか。フェローとしての活動を通じて米国議会の現場から見えたのはやや異なるものであった。大統領が主導する政策が強い影響力を持つ中でも、党内には依然として多様な意見が存在しており、それぞれの信念や理由に基づいて活動する議員やそれを支える補佐官の姿があった。
新たな視点を与えてくれた上司からの指摘
米国議会の委員会は、所管する法案・決議案の審査、また米国が直面する政策課題や社会問題に関する公聴会の開催などを通じ、政策形成や世論喚起において重要な役割を果たす。外交委員会の公聴会で扱われるトピックについて言えば、全ての案件が広い意味では外交に関連しているものの、実際には、国務省の予算や権限といった毎年行われるものから、重要鉱物の中国への依存や南アジアにおけるテロの脅威など個別の分野に深く切り込むものまで実に様々であった。こうした公聴会での発言・質問案の作成に当たっては、それぞれの個別のトピックをめぐる問題状況や対応策についての情報収集や分析もさることながら、委員会での議員の発言は議会内外の多くの人の耳に届く可能性があるため、党の方針、議員の政策スタンス、選挙区との関連など多くの要素を考慮して、慎重に作り上げて行く必要がある。しかし、初めて発言・質問案の作成を任された時の私にはそうしたことまで理解する余裕はなかったように思われる。
2月に下院外交委員会での初回の公聴会が開催された。主題は「米国国際開発庁による裏切り(The USAID Betrayal)」 1 。USAIDは米国の外交政策の一部として他国への開発援助や人道支援を担ってきた機関である。公的機関による(国民への)裏切りとは、少々、過激なテーマ設定のようにも聞こえるが、「アメリカ・ファースト」に基づく立場からすれば、国民が苦労して支払った税金が海外での無駄な事業に使われている現状は改められなければならない、ということになる。この対外援助の削減に関し、トランプ大統領は就任初日の大統領令により、90日間の対外援助プログラムの停止、効率性・外交政策全体との整合性の観点からの見直しを行うことを発表 2 するなど「アメリカ・ファースト」を体現する象徴的な政策事項の1つであった。こうした背景もあり、この公聴会での発言案の作成を依頼された時、私の中には「共和党議員であれば政権の方針に沿った発言をするのだろう」という思い込みがあったように思われる。作成に当たっては、まずは、対外援助に関連する組織や政策の大まかな枠組み、そして、これまでの経緯など基本的な事実関係を確認。続いて、大統領、国務長官や外交委員長の発言、現状の問題点などを洗い出した。苦労してどうにかそれらしい形に仕上げ、上司の補佐官に提出したものの、その反応は思いのほか芳しくなかった。曰く、政権の方針を意識して書いてあるのは分かるが、それが議員の立場やこれまでの主張と整合的なのか、また、選挙区の有権者からどう受けとめられるか考えてみたのか、と。いま思えば、随分と「真っ赤な」発言案を書いていたということだろう。その後の上司との打合せを踏まえ、政権の方針に賛同を示しつつも、過去の対外支援の成果にも触れるよりバランスの取れた内容に修正し、発言案は固められていった。
多様な意見のせめぎ合いによる政策決定
この苦い経験は、以後の発言案の作成に活きただけでなく、外交委員会の活動を見る際の重要な視座を与えてくれたように思う。つまり、新たな大統領による政策変更に向けた強いプレッシャーの中でも、議員は政策の是非に応じてそれぞれの立場から多様な意見を議会で表明しているということである。確かに、外交委員会の議論において、政権の方針と一致した主張をする共和党議員が数の上では多いように思われた。これまでの対外援助政策について、無駄や不透明な部分が多く、時には米国の利益に反する対象までを支援してきたのではないかといった点を指摘し、大幅な支援削減を求める共和党議員が目立った。しかし、委員会での活動をつぶさに観察すれば、そうした「アメリカ・ファースト」的な立場以外にも、過去数十年にわたり米国が果たしてきた国際秩序の維持のための関与の意義を強調する立場、中国との競争を念頭にインド太平洋地域への関与を重視する立場などが存在していることが分かる。こうした議員からは、対外援助の急激な削減に関し、米国がこれまで築いてきた国際的な信任を損なうことへの懸念や米国の支援停止が中国の影響力の拡大につながることへの懸念が表明されていた。強い政治的なプレッシャーの中にあっても、これまで自らが外交分野で培ってきた知見や選挙区への影響などを勘案しながら政権の方針と向き合い、自らの政策スタンスを打ち出そうとする議員の姿を示すものであった。
また、ワシントンDC事務所での勤務だけでなく、地元選挙区での調査活動にも参加できたことは、米国で議員がどのように地域に存在する多様な意見を吸い上げ、議会での活動に反映させているのかを伺い知る貴重な機会となった。この地元での活動期間中は、ワシントンDC事務所と地元事務所のスタッフが連携し、議員本人の選挙区での滞在時間を最大限活用できるよう数多くのスケジュールが組まれていた。早朝から同僚補佐官とレンタカーに乗り込み、連邦機関の地方支局、地元政府関係者、経済団体、各種の支援団体などを訪問。地域コミュニティがどのような課題を抱えているのかを丹念に聞き取り、政策的な対応が必要かつ可能なものについては議会での活動や予算プロセスを通じて解決を目指すこととなる。地域で聞かれる声はまさに多種多様であり、連邦議会や政府の進める政策への期待や懸念が入り混じったものだった。こうした地域の実情に向き合うことが議会での多様な意見を生み出す原動力になっているのではないかと感じることができた経験であった。
さきの上司の補佐官からの指摘や選挙区への訪問は、米国議会の現実をより精度を高めて見るための重要なきっかけを与えてくれた。目下、外交委員会では国務省の組織や権限を全面的に見直す法律案のとりまとめが進められている 3 。この取り組みが最終的に法案の成立まで至るのかは現時点では 4 見通せないが、この法案の草案もまた議員の多様な意見のせめぎ合いの中で形作られるものである。こうした視点から米国議会を捉えることは、そのダイナミズムを理解し、議会における議論や政策の変化の行方を多少なりとも見定める上で有益であると思う。
結びにかえて
歴史的な政治状況の中で開始された新議会期。共和党が議会両院及び行政府を制する中、政策実現に向けた議会でのプロセスがどのように展開されるのか高い関心が寄せられている。私が過ごしたのはそのごく一部に過ぎないが、本フェローシップ活動を通じて、米国議会の実際のメカニズム、委員会での議論の在り様や議員・補佐官の考え方などについて想像以上に多くの知見を得ることができたと感じている。米国議員の行動様式を間近に見て、議員事務所で同僚補佐官と肩を並べて勤務する。こうした過程の中で得ることができた経験は、日本にも大きな影響を与えうる米国議会での政策形成の力学やその動向を多層的に理解する上で極めて有益な示唆を与えてくれるものである。このような貴重な機会を与えてくれた笹川平和財団、衆議院事務局、そして、背中を押してくれた家族に改めて感謝申し上げたい。
- House Committee on Foreign Affairs, The USAID Betrayal: Hearing before the Committee on Foreign Affairs, 119th Cong., 1st sess., February 13, 2025, <https://foreignaffairs.house.gov/committee-activity/hearings/the-usaid-betrayal>, accessed on August 29, 2025.(本文に戻る)
- The White House, "REEVALUATING AND REALIGNING UNITED STATES FOREIGN AID," January 20, 2025, <https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/2025/01/reevaluating-and-realigning-united-states-foreign-aid/>, accessed on August 29, 2025.(本文に戻る)
- "Chairman Mast Delivers Opening Remarks at Hearing on State Department Authorization," House Committee on Foreign Affairs Press Release, April 30, 2025, <https://foreignaffairs.house.gov/news/press-releases/chairman-mast-delivers-opening-remarks-at-hearing-on-state-department-authorization>, accessed on August 29, 2025.(本文に戻る)
- 本体験記の執筆は2025年8月。(本文に戻る)
2026年度SPF-APSA米国連邦議会フェローを募集しています ! (募集締切:2025/12/2)
- 派遣期間:2026年9月~2027年8月
- 派遣先:米国ワシントンD.C.
- 募集人数:合計2名
② 実務家カテゴリー:1名
★募集情報の詳細は下記ウェブサイトからご確認ください。
https://www.spf.org/jpus-j/fellowship_a/apsa-fellowship-application.html