国際ワークショップ@テヘラン
「女性の起業家支援:日本とイランにおける現状および課題」
2018年5月14日
2018年5月14日(月)、公益財団法人・笹川平和財団(東京都港区、会長・田中伸男)は、イラン・テヘランのイラン国立図書館にて、イラン女性・家庭環境担当副大統領府、イラン外務省、イラン国立図書館との共催による国際ワークショップ「女性の起業家支援:日本とイランにおける現状および課題」を開催しました。ご登壇いただきました日本人の女性専門家の講演概要をご紹介します。

日本とイランにおける女性起業家の比較研究:実践と政策

村上明子 北海道大学大学院経済学研究科研究員

日・イランの労働・起業状況

 日本とイランの社会事情は大きく異なりますが、女性の就業や起業に関しては、共通する部分も多いと思います。
 仕事の内容や働き方については、労働市場の需給構造が大きく影響します。両国の人口構造についてまとめてみますと、イランは、生産年齢人口、特に20代から30代のベビーブーム世代が分厚くなっています。それに対して、日本は、少子高齢化が進展していることがうかがえます。両国とも良質な人的資源が豊富ですが、労働市場の需給構造には非常に大きな違いが見られます。
 次に女性の労働力率です。イランの場合、女性の労働力率はここ10数年の間に約15%で推移しています。ただし、地域や年齢、学歴水準によって、状況は大きく異なります。日本の場合、女性に期待される役割は、母親や妻としての役割が非常に大きく、性別分業規範がいまだに根強い社会だといえます。出産・育児期には女性が一旦労働市場から退出し、子供がある程度大きくなってから労働市場に再び参入するパターンが多いため、日本女性の年齢階級別労働力率はこのように「M字カーブ」を描くことが知られています。
 起業に対する両国の社会状況については、一般的に日本では、起業に対してネガティブなイメージを持っている人が多いです。実際に2016年の総合起業活動指数(TEA)を見ますと、5.3%です。一方、イランのそれは、12.8%です。イランの方が、起業行動に対して積極的な人が多いと思います。すでに2002年の時点で、大学レベルでの起業家教育の本格的なカリキュラムも始まっています。ただし、相対的に見て女性の起業活動はイランにおいても伸びしろが大きいです。
 ここで改めて両国の状況を整理しますと、日本では、少子高齢化への懸念から「働き方改革」が進められているのに対し、イランでは、労働市場の需給構造がアンバランスであるために、雇用創出や民間部門での競争力強化が求められています。市場構造や動機は異なりますが、日本もイランも既存の中小企業振興策からさらに一歩進んだ起業振興策への期待が高まっているのです。そして、非常に大切なことですが、両国とも女性リーダーの育成、女性起業家の育成に注力し始めています。

日・イランの女性起業家の実情-アンケート調査を通じて

 それでは次に、女性起業家の実情について、アンケート調査をもとに見ていきます。両国のアンケート回答者は、平均年齢や婚姻状況が似通っているように思われます。また、両国ともにサービス業が最も多くなっていますが、次に多いのは、イランでは製造業であるのに対し、日本では小売業となっています。学歴水準については、回答者の平均年齢も考慮しても、両国ともに高学歴の傾向が見て取れます。特にイランは、修士号、博士号を持っている方が半数以上になっています。
 次に、両国の起業動機については、非常に興味深い結果となりました。日本で多数を占めたのは「仕事と生活を調和したかった」で、次いで「ビジネススキル、知識を向上させたかった」、「より高い収入を得たかった」という順になっていますが、一方、イランでは「ビジネススキル、知識を向上させたかった」、「リスクや緊迫感を感じながら、新たなビジネスに挑戦したかった」、「仕事と生活を調和したかった」という順になりました。つまり、日本の回答者は、生活基盤の構築を重視するのに対して、イランでは、キャリアアップや挑戦的な姿勢をより好むという傾向にあるといえるでしょう。
 起業家活動の実態についても、興味深い違いが見られました。たとえば、身近な先輩起業家であるロールモデルの存在有無について、日本の回答者のうち、ロールモデルがいると回答した方は、10.65%にとどまっていましたが、イランでは36%にものぼりました。また、家族関係についても、「起業活動に肯定的に作用している」という評価は、イランの回答者の方がずっと高かったのです。
 さらに、起業に関する社会的な受け入れ状況についても、イランの方がより肯定的な評価となっています。一方、日本では、女性は起業に必要な自信や自己効力感は持っているのですが、社会一般の規範として、起業が受け入れられているとは言い難い状況です。それに対してイランの場合は起業の正当性を後押しする背景として、家族や周辺コミュニティとの緊密さ、そして、高学歴の獲得による自己効力感の向上や裁量の拡大といったイラン的な要素が非常に注目されます。

ベストプラクティスを通じた起業の意義と課題

 次に、両国のベストプラクティスをご紹介しながら、起業の意義と課題について整理していきます。
 イランの女性起業家のベストプラクティスとして、タヤラニ氏、パルシー氏、ゴッズ氏を改めてご紹介したいと思います。お三方共にイラン社会が変化していく中でキャリア形成を成し遂げてきました。彼女らの起業活動は、地域やイラン社会の発展に大きく貢献しており、起業家としてのパイオニア精神がとても印象的です。これらのベストプラクティスから、新たな財だけでなく、イノベーティブな取り組みを通して、社会全体に「気づき」や「新たな概念」、「機会へのアクセス」を提供しているという、起業活動の意義がわかります。
 一方、日本の女性起業家のベストプラクティスですが、池田さんが先ほど素晴らしい報告をして下さいました。彼女たちの起業活動からは、女性ならではの視点からニーズを発掘し、これまでにないコンセプトや付加価値を見出して、世の中に提示していることがわかります。一方で彼女たちの起業の苦労としては、男性の多い金融機関やベンチャー・キャピタル、あるいは取引相手に事業内容を理解してもらうことが大変だったということです。ここから、女性の支援を専門に行う支援者やメンターが必要であることがわかります。

日・イランの政策支援策の現状

 次に、両国における支援策の現状について、簡単に整理します。
 まず、両国に共通する背景として、中小企業振興策が精力的に進められてきたということが挙げられます。ただし、女性起業家に的を絞った支援は、両国ともに十分ではありませんでした。そこで、女性起業家への政策的支援として、イランでは現在、教育のエンパワーメントやロールモデルの形成、組織強化という観点から支援を強化しています。また、官民連携も精力的に進められています。現在のイランでは、女性や女性起業家への支援策がたくさん掲げられているのですが、せっかくの支援策が分散化してしまい、非効率的な状況に陥っています。限られた人材や財源を効率よく活用し、支援を必要とする人のニーズを効果的に満たすという点でも、官民連携モデルは期待を集めています。
 一方、日本では、経済産業省が「女性起業家等支援ネットワーク構築事業」を推進しています。この事業では、「ママ起業家」に焦点を当てて、認知度の向上や支援ネットワークの醸成、強化、女性起業家のニーズの可視化、制度の便益性の向上等に努めています。また、地方自治体レベルでも、取り組みが進められています。
 次に、女性の起業に関する民間レベルでの支援状況を紹介します。まずは、イランのベストプラクティスをご紹介したいと思います。「女性起業家協会」と「女性と若者のための社会起業家財団」の取り組みです。これら二つのNGOによる女性起業家支援のポイントとして、ネットワークの構築や枠組み作りへの取り組みが挙げられます。
 「女性起業家協会」は、女性起業家たちの視点を制度設計に反映させるよう積極的に活動しています。「女性と若者のための社会起業家財団」は、各地のコミュニティ開発に携わる起業家や彼女たちを支えるNGOを、現地の視点に基づいて細やかに支援しています。つまり、これらのNGOは、女性起業家どうしをつなぐということはもちろん、その他にもステークホルダーとの関係構築、支援組織間の連携、各地域のコミュニティとの対話等を包括的に推進しています。また、両組織とも、イランにおける官民連携の先駆的な存在です。このようにNGOの活躍によって、多様なニーズに対する体系的な把握が進められており、有機的で効果的な支援の枠組み作りが模索されています。
 続いて、日本の民間組織による女性起業家支援のベストプラクティスを紹介したいと思います。「ビズホープ」と「ワタラクシア」の取り組みです。二社に共通する特徴として、起業に対する女性特有の阻害要因へのサポートが挙げられます。たとえば、自信のなさやビジネス知識の不足をカバーしたり、ビジネスネットワーク構築を支援したりすること等です。このように日本で女性起業家がさらに活躍するためには、二つの面から支援を考える必要があります。一つは、女性に求められがちなライフコースやワーク・ライフ・バランスを十分に考慮した上で、ビジネスモデルを模索することです。そして、もう一つは、事業に直接的に影響するビジネススキルや営業、プロモーション不足への対策です。

政策提言として

 最後に、両国における政策提言について申し上げます。
 イランも日本も、女性の起業を阻害するような法制度上の問題はありません。しかし、社会規範や労働慣行のために、女性の起業活動へのインセンティブが十分に働いていない状況です。両国ともに、様々なレベルでの教育支援や財政支援、また効果的なサポート人材の配置が求められます。その上で、日本の場合は特に、起業に対する認知の向上が求められます。また、起業時だけでなく、起業後の事業支援も重要です。特に「ママ起業」のような零細、個人事業主向けへ仕事の紹介、あっせん、そして、メンターによるサポートや女性起業家どうしの交流も有効な支援となります。そして、これはイランにも共通すると思います。
 イランの場合は、特に重視すべきは支援の枠組みのあり方です。分散化しがちな支援策を効率的に運用するためにも、女性起業家の実態やニーズを的確に把握することが求められます。統計システムの見直しや官民連携のさらなる強化等が、これらに効果的です。そして、イランも日本も、これらの支援策を有機的かつ効率的に機能させるために、ICT(インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー)の活用方法について検討を重ねて、その成果を普及していくことが重要です。
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