【開催報告】ジェンダー投資研修 From “Why” to “How”
笹川平和財団は、アセットオーナー投資家(LP)に向けたジェンダー投資実践のための研修プログラムを開催し、インパクト測定・管理(IMM)の枠組みを発表しました。
松野グループ長:AWIFは現時点で3800万ドルほどインドネシア、ベトナム、インド、カンボジアなど 、アジアの女性起業家と女性の金融アクセスの改善に向けて投資をしてきました。こうした新興国は経済成長率が高く有望な投資先である一方、安定雇用を提供できる企業などの雇用主が多くはありません。 そのため、経済力をつけたい女性たちにとって「就職」ではなく「起業」が現実的な方法となります。
ただし、伝統的な金融機関で意思決定をしているのは男性が圧倒的に多いです。また、一般的に女性は担保となる資産を持たず、与信度が高くなく、貸し手側のジェンダーバイアスの課題などから、女性起業家の資金需要が満たされていませんでした。
こうした中、AWIFは2017年からアジアの女性起業家が創業・事業継続・拡大などに必要とする資金をファンドを通じて間接的に提供し、また技術支援事業として直接的に支援してきました。この段階では欧米以外でインパクト投資は珍しかったので、アジアのインパクト投資黎明期の先行事例として意義があったと思います。
加えてAWIFが「女性の経済的エンパワーメント」に資する投資、つまり「ジェンダー投資」である面も画期的です。現在、世界の労働者の約半分は女性ですが、経営者では2割弱、事業主は15%弱しか女性がいません。世界平均で見た男女間の賃金格差はまだ大きく、女性の賃金は男性の52%に留まります。
つまり、私たち笹川平和財団のAWIFは女性起業家支援=「女性の経済的エンパワーメント」を通じて、「ジェンダー平等」という社会的インパクトを生み出そうという仕組みに投資しているのです。
こうして、ジェンダーに関する企業調査や機関投資家の動きは国境を超えて動いています。しかし、この情報を受け止めて自社の情報開示を進めている日本企業が一体、どのくらいあるでしょうか。ジェンダー課題を将来へのリスク、またはオポチュニティー(機会)としてとらえて積極的に情報開示を進めている企業はほんの一握りです。
松野グループ長:実は、当財団も2019年にEquileapと共同で調査を行い「日本、香港、シンガポールにおけるジェンダー平等に関する企業ランキング トップ100」と いう報告書を公表しました。
この調査では世界の上場企業200社が開示するジェンダー平等に関するデータと、アジア3拠点に本社を置く100社のジェンダー平等のデータを比較しました。アジア企業のジェンダー平等度合いは世界企業と比べてずっと低いです。その理由はジェンダー格差が大きいことに加え、情報開示が極めて限定的でありデータが取れないところにあります。
ちなみにEquileapは国連女性機関などが定めている女性のエンパワーメント原則(WEPs)に基づく19の指標によりジェンダー平等スコアを算出しており、それが前述のGPIFが採用し3000億円を投じたESG指数の元データになっています。
松野グループ長:私はこれまで海外などで仕事をしてきました。日本はアジアの中でもジェンダー課題への取り組みで遅れを取っていると感じます。今、日本の企業社会に必要なのは女性活躍施策の成果指標や情報開示項目の枠組み作りです。ただし、うわべだけの枠組み作りをするのではなく、気候変動だったり、人口動態の変化の中で急速に変わっていく日本において、ジェンダー課題の解決は、持続的に企業価値を向上させ、社会に貢献できる企業であるために必要不可欠である、という納得感、腹落ち感を持って取り組んでほしいのです。
ジェンダー平等や多様性を経営に生かしていくために、発想の転換や目を外に向けることが必要だと思っています。海外の先行事例を参考に、指標や項目は海外の調査機関や機関投資家にも明確に分かるような形で開示する必要があります。当財団としては、現状に危機感を持つ日本企業の方々の参考になるような国際潮流の紹介、調査の翻訳などを行っていくつもりです。
(写真 鈴木愛子撮影)