実践的なジェンダー視点強化の指南書
GLIAツールキット
東南アジアの持続可能な発展に重要な役割を果たす、女性の社会進出。なかでも起業は、特に農村部において女性が経済力を得るためのほぼ唯一の手段となる。起業を支援する組織の数々が、出資者など多様なステークホルダーと協働し女性の可能性を広げている。
起業エコシステムに影響力を持つ起業家支援組織がジェンダー視点を実装していることが、東南アジア諸国の働く女性たちを取り巻く、さまざまな課題を解決するには必要不可欠なのではないか。そんな想いから、笹川平和財団はオーストラリア外務省やNGOと協力し、起業家支援組織向けにジェンダー視点導入の指南書「ジェンダー・レンズ・インキュベーション&アクセラレーション(GLIA)ツールキット」を開発し、2020年に発表した。

【インタビューの様子】
今回は、GLIAツールキットの開発や、実用化に向けた検証を行う「パイロット・プログラム」に携わったygap(オーストラリア)、 xchange(フィリピン)、SHE Investments(カンボジア)に、GLIAツールキットを使用して、支援プログラムや組織運営のジェンダー視点強化にどのような影響があったのか、今後ツールキットをどのように広めていこうと考えているのか一般社団法人Earth Company共同代表/濱川 知宏が話を聞いてみた。
- それぞれの組織の活動について教えてください。

より公平で持続可能な世界を創るには、すべての人が社会起業となれる環境が必要だという想いから、ygapはアフリカ、アジア、太平洋諸島、オーストラリアを拠点に起業家支援を行っています。女性に特化した起業家支援プログラム「yher」、女性起業家の市場や金融アクセスの向上など、女性起業家が関わるエコシステム全体が包摂的となれるよう様々な活動を行っています。

SHE Investmentsはカンボジアの女性起業家支援組織で、インキュベーション・アクセラレータープログラムの企画運営と、起業エコステム構築支援を行っています。小さな事業を始めたばかりの女性起業家が男女格差を超え、中小企業として事業を拡大できるよう支援しています。

xchangeはフィリピンの起業家支援組織で、高い可能性を持つアーリーステージ社会起業家への支援・投資を行っています。少し変わっているのが、複数の起業家を対象にしたグループ支援や短期支援は行わず、3年から7年の期間をかけて個々の起業家を支援していることです。支援プログラムから卒業した後も、xchangeのスタッフが起業家が運営する事業での理事や支援者となり長期的に関わりを続けることが多いです。
- ygapへ:GLIAツールキットの開発背景や途中経験した課題などについて教えてください。

【(左)GLIAツールキットの開発に関わった9団体】

【(右)パイロット・プログラムに参加した6団体】
GLIAツールキットの開発には、笹川平和財団ジェンダーイノベーション事業グループやygap、オーストラリア政府外務貿易省の「Frontier Incubators」プログラムを筆頭に、数多くの団体が関わっています。東南アジアの代表的な起業家支援組織6団体による支援現場での検証を経て、多様な組織運営の形や学びのスタイルに合った、実践的なツールキットを開発することができました。She Investmentsやxchangeもこのパイロット・プログラムに参加した組織です。Erikaのように指南書を最初から最後まで通して読む方もいれば、各項目を必要な時に活用したい方もいるので、どちらにも対応できるよう「ツールキット(特定の目的で使用するように設計された一連の道具)」という形を取りました。
課題としては、GLIAツールキットは規範ではなくあくまでも指南書であることから、「正解」を求める読み手にとっては不安要素を残してしまうかもしれない、という点でした。活動を行う環境が違えば「正解」も異なるため、規範は現実的ではありません。この課題を乗り越えるために、GLIAツールキットに基づく研修を受ける起業家支援組織のコミュニティ「GLIA Community of Practice(COP)」を結成しました。共に学び合い成功事例を共有し合うことで、組織のジェンダー視点強化への知見を深め、自信構築に繋げてもらうことができました。また、多国籍なCOPのメンバーが自分たちの国でGLIAツールキット活用事例を作ってくれることで、それぞれの国でより身近な存在に感じてもらえるようになったと思います。
-xchangeとSHE Investmentsへ:GLIAパイロット・プログラムに参加した感想を教えてください。
Audrey:とても良い指摘で、すぐに取り入れました。当初GLIAツールキットは長い、文字だらけの資料で、どこから手をつけて良いか分かりづらかったと思います。まずは自分たちの組織運営やプログラムについて振り返る自己診断から始めることで、GLIAツールキットの活用方法が分かりやすくなりました。
Erika: 同じく「Frontier Incubators」を通じてパイロット・プログラムに参加しました。過去に参加したジェンダーに関する研修は理論的なものが多かったので、GLIAツールキットを使って自分たちの組織運営に当てはめてジェンダー視点について考え、議論する場が持てたことに感動しました。xchangeはジェンダーに関しても先進的な組織だと思っていたので、自己診断ツールの結果を見てイメージとの差にショックを受けたのを覚えています。どこから手をつけて良いか分からないくらい多くの改善が必要だったのですが、COPのメンバーと一緒に課題を乗り越えていくことができました。
- GLIAツールキットを使ってみて、どのようなインパクトを感じているのでしょうか?

【xchange チーム写真】

【SHE Investments チーム写真】

- 他のジェンダーに関する指南書と比べた、GLIAツールキットの特性について教えてください。
Celia: 単なる指南書ではなく、ビジョンを共にする仲間と出会える生きたコミュニティであるということが特別です。東南アジアの様々な国を拠点に活動するCOPのメンバーが各国の環境に合わせてGLIAツールキットを活用しており、多様な文化に対応できるツールになっていると思います。
Erika: ジェンダー視点強化に向けての取り組みは、終わりのない旅のようなものだと思っています。実験的に導入した施策について、COPのコミュニティの中で共有し合えることがとても心強いです。
- GLIAツールキットをどのように広めていこうと考えているのでしょうか。

【GLIAツールキット関係の内部ワークショップを開催するSHE Investments①】
Celia: ツールキットに書かれていることをテーマに組織内でワークショップを開催し、チームに広めています。今後はカンボジアでのGLIAツールキット活用事例を増やし、カンボジアの起業エコシステム向上に良い影響をもたらすことができるよう活動していきたいと思っています。

【GLIAツールキット関係の内部ワークショップを開催するSHE Investments②】
編集後記
GLIAツールキットは下記オンラインサイトにて英語、ミャンマー語、タガログ語(フィリピン)、クメール語(カンボジア)に対応し公開されている。
※https://gliatoolkit.com/
(一般社団法人Earth Company共同代表/濱川 知宏)
*社会の発展が相乗効果をもって地球上全ての命のウェルビーイングを向上するあり方
・詳しくはウェブサイト: https://www.earthcompany.info/ja/