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笹川日中友好基金

客観的に、そしてワイルドに ~「完全無欠のサンゴ礁の海」を求めて~ 田代教授インタビュー

笹川日中友好基金


2025.12.12
14分

 2025年10月25日、第8回となる日中未来創発フォーラムが福岡県で開催され、日本人大学生と中国人留学生合わせて約40名が参加した。今回のテーマは「未来の環境と私たち」で、主に海洋環境の保全に関して、専門家による基調講演や海洋ゴミに関するシミュレーションゲーム、グループワークを通じて理解を深めた。

 今回、基調講演をされた名桜大学教授の田代豊先生と、留学中の鄭暁玲さんにインタビューさせていただき、お話を伺うことができた。本記事では前編として、田代先生のインタビューを紹介する。

 

【田代豊先生】

名桜大学国際学部国際観光産業学科教授。環境計量士(濃度関係)、一般旅行業務取扱主任者。理学修士(大阪大学)、博士(学術)(三重大学)。

【主な研究テーマ】

・南西諸島における微量有害物質

・南西諸島農水産物の化学分析

・南西諸島の自然環境を題材とした環境教育手法の開発
 

―改めて、先生のご研究内容を教えてください。

私の専門は環境科学で、沖縄・奄美といった南西諸島をフィールドに設定して環境中の有害物質などの分析を行っています。そして南西諸島には海と陸の間である海岸が多いことから海岸の地形・地質についても研究しています。それら地形・地質は人間から見ると景観というものになるため、その南西諸島の海岸の景観の特徴も調査するようになりました。

 

―環境科学の中で有害物質の分析を専門とされ、そして南西諸島をフィールドにされた理由を教えてください。

まず、南西諸島の特に海岸付近といった、かなり自然度の高い状態で保たれている場所を守りたいということが一番の理由でしたね。そして、それを守るために必要な研究をしている人があまりおらず、誰かがやらなきゃいけないということで、私が研究することにしました。

 

―そのようなご研究ではどのような部分が難しいのでしょうか?

そうですね。環境相手だということが一番ですね。環境は刻々と変わっていくので、同じ条件はもう二度と生まれません。例えば、研究テーマの一つである景観にしても、ある場所が、どのような景色を見せるかというのは、刻々と変わっていきます。その瞬間に得た情報・物質から一体何を評価するのか判断すること、そして更に、その評価した物事を研究に使える材料にしていくということは、なかなか大変なことだと思います。そして、何より自然相手の研究ですから、研究対象物を探し求めるために走り回ったり山奥の岩によじ登ったり、ということもあります。

 

―ワイルドですね。

それが一番の仕事というか、それによって研究を進めているとも言えますからね。この場所にこんな物があるんだということを見つけ出すというか…。研究している物事がありそうな場所を発見したら、そこに何としても行くという気持ちで研究にあたっています。

 

―先生が執筆されたコラム(※1)を拝見しました。そのコラムのプロフィール欄に「大学時代には、沖縄の海でキャンプをしながら素潜りを始め」とありましたね。私の出身地が熊本県の天草で、幼少期から私も海で素潜りをしていたので親しみを感じました。ダイビングもされますか?

そうなんですか。大学は大阪でしたが、夏休みとかそういう長期休みを利用して沖縄に行ってはキャンプや素潜りをしていました。スキューバダイビングはね、以前は時々やっていましたが、最近はちょっと面倒くさくてあんまりやらないんですよ(笑) 色々機材を準備するのが面倒なので。だから、それよりも最近はスキンダイビング、素潜りですね。その方が簡単に楽しめるので、時々やりますね。

 

―潜って何かとりますか?ウニとか…。

いや、とるのはあんまり上手じゃないので(笑) ただ潜ってみるだけですね。

 

―ありがとうございます。次に、先生がフィールドにされている沖縄ならではの環境問題について教えていただきたいです。

一つはもちろん、米軍基地があることです。有害物質の問題に関しては非常に特徴のあるフィールドがあると言えます。そして自然環境に関しては、海の様相や気候、地質が本土とは全然違いますので、それらが複雑に絡み合って生じる、沖縄でしか起こらない現象が多々あります。

 

―米軍基地に関して、先生がご研究されたマングースやハブを用いた実験についての記事(※2)を拝見しました。「基地内外を移動するマングースやハブといった動物の組織を採取することで、基地のある地域とそれ以外で汚染度を比較するという研究」では、「基地の集中する中部と、ヤンバルと呼ばれる森林の多い北部では、明らかに中部のマングースのほうが有害物質であるPCBの濃度が高いという結果が出」たとのことですが、その実験について詳しくお聞きしたいです。

この研究に限らず、その地域に生息する生物の体内に蓄積された物質を分析し、汚染程度の指標にするという研究は様々な地域で行われています。マングースやハブを用いたこの研究は、その沖縄版ということになりますね。この研究でマングースやハブを用いた大きな理由は、まずどちらも沖縄本島では広い範囲に生息しているということ、そしてどちらも有害な動物ということで駆除対象となっており、捕獲された生体試料が比較的集めやすいことが挙げられます。更に、生物濃縮の観点から考えると、どちらも食物連鎖の上位にいる肉食動物であることから有害物質を蓄積しやすいと考えられるため、この研究に適した動物だと言えます。また、このような研究において動物を用いる最大のメリットは、一般人が立ち入れない場所も含めた汚染状況を把握できることです。例えば沖縄では、マングースやハブは基地内部と外部を行き来するため、一般人が入りえない基地内部の汚染状況を知ることができます。有害物質の中には、一般の民生用には用いられない物質があるので、そのような物質が検出されるということはつまり、その地域に汚染源があるのだろうということが推察できると言えます。

 

―ありがとうございます。次に、今回のフォーラムのテーマに関連した質問をさせていただきます。今回のテーマは「未来の環境と私たち」ですが、まず、自然と人との関係はどうあるべきだと考えますか?そして、「未来」に関連して、未来の主体となる学生、若い世代に期待することは何でしょうか?

まず、自然と人との関係に関してですが、現状では、人間はどんどん自然から離れていっていると思います。しかし、自然や現実世界が人間に与えてくれるものは非常に重要です。なぜなら、人間は未だ自然やリアルな世界全てを理解していないからです。それまで我々が知覚していなかった現象に出会って初めてその現象の存在を知ることができ、少しずつ理解していくことができます。バーチャルなものをいくら見ていても、根本的な新しい発見は生まれません。自然と触れ合うことによってしか、本質的な新しい発見は生まれないのです。そのため、自然を守ることはもちろん、自然と接するということを維持していかなければならないと考えています。

次に、若い世代に期待することは、客観的に物事を見る姿勢を養うことです。若い人の思考や行動は、世の中の様々な状況に強く影響を受けていると日ごろ大学で学生たちと接していても思いますね。自分が種々様々な情報に左右される人間になるのではなく、客観的な判断の元に作られた確固たる芯を持ち、自分が世の中を左右するぞと、そういう気持ちを持ってほしいです。世の中の動きを外の立場から見るという姿勢がこの先重要になってくると思います。

 

―先生の今後の展望を教えて下さい。

やってみないと分からないので具体的なことは明言できませんが、なるべく色々な人に、自分が見つけた物事を伝えていきたいということが一番大きいです。やっぱり仕事柄、あんまりほかの人が見つけないようなことを発見しちゃうこともあるんですよね(笑) そういうことをどうやって伝えるかというのが一番鍵になってくると思います。

 

―最後の質問です。先生が書かれたコラムのプロフィールに、素潜りのエピソードに並んで「『完全無欠のサンゴ礁の海』を探し歩く夢を時々見る」とありました。その「完全無欠のサンゴ礁の海」について詳しくお聞きしたいです。無事見つけることはできましたか?

はっはっはっ(笑) いやー、見つけることができたというか、随分前にちらっと見た記憶があるだけなんですよ。旅行会社に勤務していた時代にタヒチの海を見学したときです。海面からちらっと一瞬見えたような気がしたんですよ。それが大変自分の印象に残っています。確かにそこには「完全無欠のサンゴ礁」の世界があるのだなと思い続けていて、その中に自分が入ったら…というイメージはありますが、まだそこで実際に泳いだことは無いですね。

 

―本日の先生のご講演で、人間と自然との関係を説明するために、黒竜江の湖に飛び込んだ男性の例を紹介されていましたね。男性が湖に飛び込んだことにより「鷹になったような気分だ」「自分自身が風景の一部になる」と感じたことから、その行為を行う人とその場所の環境との間には、実際にその行為をしてそこの環境と接触することにより、単に見るだけでは得られない特別な関係が生じるというお話でした。それではもし、先生がその「完全無欠のサンゴ礁の海」の中で泳いだら、「鷹のようになった気分」の海版、例えば「魚のようになった気分」になるのでしょうか?

なるほどね、なるほどね…。そうかもしれません。海の中に潜っていくと、海面や陸上にいる時とは全然違うように感じるじゃないですか。水の中の世界と一体になるような…。私は幼少期、海や水をすごく怖がっていました。その怖いという印象がいまだにあるからなのか、水面から底の方を見ると、ある程度深度のある水の中は非常に怖く感じます。しかし、怖いと思いながらもその深いところに潜っていくと、途端に怖くなくなって親しみを感じる世界になるんですね。それは、水の中に自分が入って、その環境と一体になっているからだと思います。


 

沖縄の太陽を浴びて小麦色に日焼けしている先生にお話を伺っていると、私も沖縄の太陽の下、青い海で泳ぎたくなった。今回のインタビューでは、親しい存在である海・海岸をはじめとする環境保全の重要性を再認識するとともに、先生の、研究に向き合うワイルドな姿勢に感銘を受けた。私も、客観的に物事を見ようとすることに努め、常に活動的でありたいと実感した。(聞き手 尾﨑そよか)
 

※1 田代豊“普遍的な価値に捧げる、「ワイルドな」研究”、名桜大学ホームページ、研究コラム(つながる、つなげる教員の輪)、2013年1月掲載、2025年11月5日最終閲覧。

https://www.meio-u.ac.jp/research/column/2013/01/002870/

※2 田代豊“ハブ・マングース・オニヒトデ環境汚染研究”、夢ナビトーク、2025年11月5日最終閲覧。https://talk.yumenavi.info/archives/2040?site=p


本記事はウェブメディア「茶話日和」(2025年12月7日付)より転載したものです。
記事の著作権は原著者に帰属しており、当サイトでは情報提供を目的として掲載しています。


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