【登壇報告】アンタルヤ外交フォーラム
2025年4月11日(金)~13日(日)に、トルコ外務省が主催する「アンタルヤ外交フォーラム(Antalya Diplomacy Forum)」がトルコ共和国アンタルヤで開かれ、11日のADF-Panel” Geostrategic Dynamics in Asia-Pacific”に当財団の角南理事長が登壇しました。
まず、サウジ女性の歴史的・経済社会的・政治的状況を見ておく必要がある。歴史的に湾岸諸国と比べてサウジの女性は早い段階から働いていた。ある研究によると、 1960年中ごろにはフェミニズム運動があり、女性の労働組合(Saudi Arab Women's Union)さえあったのである。現在、サウジの女性は政治・教育・経済・メディア・科学・映画といった幅広い方面で活躍している。
政治分野では、2015年の地方議会選挙 (the municipal council elections) では17人の女性議員が当選し、諮問評議会(the consultative assembly)にも30人の女性が指名された。
教育分野では、すでに1980年代には、女性のほうが男性よりも人文分野における大卒者数が多かった。2015年においては、サウジの大学生全体の51.8%を女性が占めている。ナノテクノロジーや情報工学、生物学といった理系分野では、プリンセス・ヌーラ・ビント・アブドゥッラハマーン女子大学(Princess Nourah Bint Abdulrahman University)という大きな女子大学がある。
経済分野では、2011年の女性の労働参加率は14.4%であった。しかし、その後女性の小売部門での労働が可能になったり、職場における託児所や保育所の設置が進められたりしたことで、女性にとって安心して働きやすい環境が整っていった。実際、サウジアラビア証券取引所(Saudi Arabian stock exchange)の所長は現在女性である。
メディア分野では、1958年ごろから、国営やイスラーム系のメディアにおいて女性ジャーナリストやアナウンサーが活動している。映画では『ワジャダ』を監督したハイファ・アル・マンスールが著名であるが、若い世代を中心に映像製作で学位をとる女性もいる。
世界のメディアにおいて、サウジ女性のイメージは、現実の知識というよりステレオタイプに基づいて構成されており、その表象はネガティブである。メディアはサウジ女性のステレオタイプ以外の役割を無視し、サウジの女性やフェミニズムそのものを差別する傾向がある。このような象徴的な排除のイメージによって、女性たちは家の外にキャリアを持ち家族を経済的に豊かにするというよりも、家で主婦としてとどまるようになる。あるいは、ムスリム女性とテロリストの活動を強く結びつけるステレオタイプもある。実際、ロンドンの地下鉄爆破事件が起こった時、新聞にはヴェールを被った女性の写真が掲載された。さらに、イスラームは女性を事実上迫害するという考えに基づいて、アラブのムスリム女性をイスラーム法の被害者として描き出すものもある。
ここにある問題とは、西洋のメディアは、すべてのアラブのムスリム女性はその性格や推論の仕方や意見や文化などにおいて、ただヒジャーブやニカーブを被っているというだけで、同一だと前提しているということである。思うに、この前提の原因とは、オリエンタリズムとジャーナリズムである。多くのヨーロッパやアメリカのメディア報道においては、ヒジャーブを被ったムスリム女性の外見に焦点が置かれている。彼らの頭の中では、ヒジャーブのイメージはネガティブなものでしかない。なぜならそれらは顔も含む体のすべてを覆うもので、女性の表情と移動の自由を制限するものだと思われているからである。しかしヒジャーブは必ずしも抑圧の証拠ではない。ムスリムとしてのアイデンティティを意識するゆえに被る人もいるし、ファッションを通した主張をするために被る人もいる。
以上で述べたように、西洋メディアにおいてムスリムやイスラームに関する記事がここ10年ほどで劇的に増えているにもかかわらず、西洋諸国はサウジのような国あるいはその女性について十分な知識や情報を持っていない。海外メディアにおけるサウジ女性の表象は、サウジの現実とは異なっているのである。