【開催報告】日本・トルコ外交樹立100周年記念シンポジウム「100年の友情から未来を考える」
日本・トルコ外交関係樹立100周年を迎えた今年、トルコ外務省戦略研究センター(SAM)との共催により、記念シンポジウム「100年の友情から未来を考える」を2024年11月7日(木)に当財団国際会議場にて開催しました。
アジア・イスラーム事業グループは、中東地域に対する理解促進のため、国内外の当該地域の専門家を講師とするセミナーを開催しています。
今回は、カイロ・アメリカン大学社会調査センターのハニア・ショルカミー氏(Dr. Hania Sholkamy)を講師に迎え、公開ウェビナー「エジプトにおける女性のエンパワーメント:取り組みと課題」を開催しました。
当財団常務理事の安達は冒頭の挨拶で、当財団は目指すべき5つの重点項目の一つに「女性のエンパワーメント」を掲げ、中・長期的な視点から課題解決に取り組んでいることを紹介しました。また中東域内での関連事業として、イランと共同で実施している女性の社会参画促進に関する事業を紹介し、今回のウェビナーでは、同じく中東の地域大国であるエジプトにおける女性のエンパワーメントに関する取り組みや課題について、参加者の皆さまとともに理解を深めたいと述べました。
ハニア・ショルカミー氏は、「QUICK, QUICK, SLOW STEPS TO JUSTICE」と題した講演の冒頭で、エジプト政府による憲法・関連法の制定・改定や女性のエンパワーメントを目指す国家戦略の策定などを紹介し、政府はジェンダー公正に向け迅速かつ積極的に取り組み、様々な成果を挙げていると指摘しました。一方で、一連の施策が個人の行動変容まで及んでいない点、個人が主体性を持っているかどうかという点、ジェンダー公正が一部エリートにのみ響いている点で課題が残ると述べました。
続いて、ショルカミー氏は、「ジェンダーに基づく暴力」、「社会的保護」、「女性の労働」の3つの分野に着目し、それぞれ具体的な事例を取り上げながら、ジェンダー公正の課題を紹介しました。まず、「ジェンダーに基づく暴力」については、公共の空間を安全な場所にすることで女性への暴力の問題の解決に取り組んだUN Women主導のセーフシティー・プロジェクトを取り上げ、コミュニティーベースでの人々の考え・行動・規範は大きく変化しなかったと述べた上で、制度化のスピードに対比して、社会の変化には時間がかかるとの見解を示しました。次に「社会的保護」に関して、ショルカミー氏自身も制度設計に参加した現金給付プログラムに言及し、貧困層の生計の向上、消費・投資の増大、女性の健康状態の改善などの点で成果があった一方、女性を受給者に指定したにもかかわらず、世帯内でのジェンダーパワーバランスの変化までは導けなかったと述べました。さらに、「女性の労働」については、その労働参加率の低下を示すデータにより、賃金や保障、労働環境の安全性の面で困難を抱えていることを指摘しました。
これらを踏まえ、エジプトにおけるジェンダー公正実現のために必要なこととして、ショルカミー氏は、当事者の視点に立った課題設定、父権主義的ではない形での男性の参画や男性が抱える問題への対処、現地の事情を踏まえた事業計画の策定、インターネット空間の適切な管理、対話や議論の場の設定を挙げました。さらに、これらを実施するにあたり、女性が様々な立場や考えを持つことを認識し、現地の状況は世界的な潮流の影響を受けながら形成されることを踏まえ、集団として声を上げ行動することが重要だと説明しました。
続いて、文化人類学、中東地域研究を専門とされ、長年にわたりエジプトで調査を行ってきた高千穂大学の竹村和朗准教授が、ショルカミー氏の講演を踏まえ、エジプトの憲法改正の内容、議会における女性議員、国家女性会議の位置づけ、講演で言及された調査地を中心に補足説明とコメントを行いました。その上で竹村氏は、ハラスメントや暴力に関する法律の厳罰化の効果や意義についてショルカミー氏に問いかけました。続く参加者との質疑応答では、ユニバーサル・ベーシック・インカムの導入がジェンダー平等の実現に効果的であるかといった質問のほか、ジェンダー公正の意味、エジプト政府の施策に対する社会の受け止め方など様々な質問が寄せられました。
発表するショルカミー氏
パネルディスカッションで発言する竹村氏