【開催報告】ウェビナー「トルコにおける国家、イスラーム、宗教的マイノリティ」
アジア・イスラム事業グループは、中東地域に対する理解促進のため、国内外の当該地域の専門家を講師とする公開ウェビナー/セミナーを開催しています。
今回は、英国学士院博士研究員で、オックスフォード大学政治・国際関係学科を拠点に研究活動を行うゼレン・ロード氏(Dr. Ceren Lord)を講師に迎え、公開ウェビナー「トルコにおける国家、イスラーム、宗教的マイノリティ」を開催しました。
当財団常務理事の安達は冒頭の挨拶で、当財団がオックスフォード大学における若手中東研究者育成のフェローシップ・プログラムを支援していることに触れた上で、ロード氏はその第2期生として、2011年以降の中東における宗派主義について研究を行ったことを紹介しました。このフェローシップ・プログラムはポスドクレベルの若手研究者2名を、それぞれオックスフォード大学と日本において1名ずつフェローとして採用し、オックスフォード大学を拠点に2年間の共同研究を行なってもらうというものです。
講演においてロード氏は、トルコにおける宗教政策の現状を紹介しました。トルコは、世俗主義を国是とし、公共の場における宗教の制限や宗教活動の管理を行ってきたことから、世俗主義国家の典型と見られてきたが、特に2002年の公正発展党政権誕生以降、社会の様々な領域でイスラム化が進行していると述べました。その上でロード氏は、国家がイスラム化に果たす役割に触れ、とりわけ、宗教に関する事柄を管理する国家機関である宗務庁の役割が拡大していると指摘しました。
続いてロード氏は、トルコの国家・政治と宗教の関係については、世俗主義を志向する国家と伝統的で敬虔なムスリム社会という二項対立的な見方が支配的であったと指摘しました。しかし、こうした見方は、トルコ社会の宗教的多様性を見落とすことにつながると述べ、さらに、「国家=世俗的な組織」と見なすことで、トルコ共和国建国以来、国家組織内にも様々な立場があったことや、その中で保守的なイスラム主義の勢力が影響力を拡大してきた経緯を見落とすことになるとして、二項対立的な見方の問題点を指摘しました。
最後にロード氏は、スンナ派ムスリムに次いで、割合として国内第2の信仰集団とされるアレヴィーを事例としつつ、トルコにおける宗教的マイノリティの現状や見通しを紹介しました。その上で、現在トルコでイスラム化が進む中で、マジョリティであるスンナ派ムスリム以外の宗教的マイノリティの多様性が認められにくい現状があると指摘しました。
講演後のパネルディスカッションでは、比較政治学、現代トルコ政治研究が専門の岩坂将充・北海学園大学法学部准教授と、トルコの宗教と政治が専門の幸加木文・千葉大学大学院社会科学研究院特任研究員が、ロード氏と議論を行いました。そこでは、議院内閣制から大統領制への移行が宗教的マイノリティに及ぼす影響、宗務庁と国家・政治との関係や同庁の役割の変化などについて、意見交換がなされました。

発表するゼレン・ロード氏

パネルディスカッションで発言する岩坂氏

パネルディスカッションで発言する幸加木氏