東南アジアにおける対日世論調査の課題と可能性:ヘッジングを具体的に語るために
2023年は、日本ASEAN友好協力50周年である。日本では、日本と東南アジア諸国、あるいはASEAN(東南アジア諸国連合)と戦略的にどのように付き合っていくべきか、日本の国益を東南アジアでどのように最大化するかといった点が大きく注目されている。
トルコで最初に新型コロナウイルスへの感染者が確認されたのは、2020年3月11日のことであり、患者はヨーロッパ旅行中に感染したとされる男性であった。そして同月17日には89歳男性が国内最初の死亡例となって以降、トルコ国内での発症者数1および死亡者数は急速に増加した。その後、各国同様にさまざまな対策がとられたことにより、発症者数・死亡者数ともに4月中旬~下旬(発症者数1日5000名弱、死亡者数1日120名超)を境に減少傾向に転じ、5月下旬~8月中旬(発症者数1日1000名前後、死亡者数1日20名前後)には一度は落ち着きをみせた2。しかし発症者数・死亡者数はともにふたたび次第に増加し始め、12月には4月を大幅に上回る「ピーク」(発症者数1日6000名超、死亡者数1日250名超)を迎え、本稿執筆時点である2021年1月下旬にいたっている。
本稿では、このうち最初期にあたる2020年上半期(1月~6月)に注目し、トルコ政府がどのように新型コロナウイルス感染症に対応したのかについて確認することとする。
前述のように、トルコで最初の感染者が確認されたのは2020年3月中旬のことであったが、すでに世界規模での感染拡大の兆しが見え始めていた同年1月の段階で、トルコ政府は保健省管轄下に26名の専門家で構成されるコロナウイルス科学委員会(KBK)を設置、対応を開始した。KBKはのちに構成員を38名に拡充し、委員会開催後にフアフレッティン・コジャ保健相が会見をおこなうのが通例となった。KBKは、治療ガイドラインや国民がしたがうべき措置の策定をおこなうなど、今日にいたるまでトルコにおける新型コロナウイルス対応の中心となっている。
1月・2月は、新型コロナウイルスがトルコへ侵入することを防ぐことを目的とした対応を政府はおこなってきた。1月下旬には中国からの航空便での入国者をスクリーニング対象として検疫を開始し、同月末には武漢からトルコ国民を帰還させる取り組みが始まった。2月初旬には中国と、すでに感染が拡大していた隣国イランからのすべての航空便を停止、イランとの国境を閉鎖した。これにくわえ2月末には、イタリア・韓国・イラクからのすべての航空便を停止し、イラクとの国境を閉鎖した。しかし、こうしたトルコ国外での感染拡大状況を瀬戸際で食い止める試みには限界があり、前述のように3月中旬以降はトルコ国内での感染拡大の段階に進んでしまった。
トルコにおける新型コロナウイルス対応は、初動は比較的スムーズであり、安心感を与えるという点においても一定の成果があったと考えられる。しかし、5月初旬からの制限緩和のあとにふたたび制限強化がおこなわれたこと、そして経済状況が実感として改善していないことによって、反動ともいえる政府への否定的な評価が強まっている状況にある5。
トルコの実質GDP成長率(前年同期比)は、2020年第1四半期にプラス4.5%であったものが第2四半期にはマイナス9.9%まで落ち込んでいたが、第3四半期にはふたたびプラス6.7%に転じた6。しかし、新型コロナウイルス対応でもっともダメージを受けたサービス部門の成長率はプラス0.8%にとどまっており、全体としての経済状況の改善が人々に実感されるにはいたっていないと考えられる。経済を筆頭にさまざまな不安定要素があるなか、政府は新型コロナウイルス対応において人々の信頼をどこまでつなぎとめられるのか。この点に、トルコにおける新型コロナウイルス対応の成否をふくめ、トルコ政府の今後がかかっているといえるだろう。
1 2020年11月25日までは保健省は陽性者数(vaka sayısı)ではなく発症者数(hasta sayısı)を感染者数として発表していた。こうした発表の変更にかんしてトルコ医師会(Türk Tabipleri Birliği)は、真実の隠蔽が流行拡大をもたらしたとして、コジャ保健相の辞任を求める声明を発した。Cumhuriyet, 26 November 2020. 本稿においては混乱を避けるため、トルコの文脈に即して発症者数と陽性者数を区別して記述する。
2 トルコ保健省新型コロナウイルス特設ウェブサイト(https://covid19.saglik.gov.tr/)を参照。最終閲覧年月日:2021年1月25日。
3 ソイル内相は、エルドアン大統領に慰留されるかたちで続投となった。
4 MetroPoll 2020. Türkiye’nin Nabzı: Ağustos 2020. など。たとえば、トルコ統計機構(Türkiye İstatistik Kurumu)の発表した2020年3月の失業率(13.2%)が事実であると考える人々の割合はわずか15%にすぎず、実際には40%以上だと考える人々は26.7%にものぼった。
5 政府の経済政策に対する批判は徐々に高まっているが、エルドアン大統領個人への支持は劇的には変化していない。岩坂将充 2020.「トルコにおけるCOVID-19の流行と政治への影響」『中東研究』第540号、27-42頁。
6 トルコ統計機構ウェブサイト(https://data.tuik.gov.tr/Bulten/Index?p=Donemsel-Gayrisafi-Yurt-Ici-Hasila-III.-Ceyrek:-Temmuz---Eylul,-2020-33606)。最終閲覧年月日:2021年1月25日。生産部門別では、金融・保険部門でプラス41.1%となっており、政府による信用拡大策の効果とも考えらえる。