公開セミナー「英国・難民の社会統合指標と日本への示唆」を開催

2020.01.08

12月5日に開催された「英国・難民の社会統合指標と日本への示唆」公開セミナー
 笹川平和財団アジア事業グループは、2019年12月5日に「英国・難民の社会統合指標と日本への示唆」と題する公開セミナーを、一橋大学社会学研究科グローバル・リーダーズ・プログラムと共催しました。セミナーには、難民支援等に関わる英国と日本の専門家等が登壇し、英国と日本における難民の社会統合について、報告と意見交換がなされました。

転換期を迎える難民政策

 戦後日本が初めて行った難民受け入れ事業は、インドシナ難民を対象としたもので、1978年の開始から事業が終了した2005年までに約11,300名を受け入れました。
 2010年には、アジアで初めてとなる難民の第三国定住事業を始め、2020年からは受け入れ人数を増やすことが決定しています。これには各国の難民支援関係者などから歓迎の声があがる一方で、国連難民高等弁務官事務所は、第三国定住難民を歓迎する環境作りと難民の社会統合が今後の日本の課題であると指摘しています。
 他方イギリスでは、年に約2万人の難民を受け入れています。2004年には、難民の社会統合指標(Indicators of Integration)が作られましたが、これは時に難民以外をも対象として、EUや北米などで活用されてきています。制定から15年経った2019年に、この統合指標が改定されました。

英国における社会統合指標の改定

 セッション1「英国・難民の社会統合指標とは」では、一橋大学社会学研究科の橋本直子准教授がモデレーターを務め、英国における難民の社会統合指標の改定に携わったジェニー・フィリモア教授(バーミンガム大学)とリンダ・モリス博士(サセックス大学)が講演しました。
(代)モデレーターを務めた橋本直子准教授

モデレーターを務めた橋本直子准教授

 フィリモア教授とモリス博士は、指標改定の背景には、シリア難民をはじめとする近年の難民急増や、指標が使われ始めてから約15年間で新たな課題が見えてきたことなどがあると言います。
 なお、改定にあたっては、指標が実際どのように利用されているのか、どういった施策が成功したのかなど、国と地方レベルそれぞれで難民当事者や支援者に聞き取りを実施。調査は英国内全域で行われました。
(代)2019年に改定された、社会統合指標フレームワーク

2019年に改定された、社会統合指標フレームワーク

 改定された指標は英国全土の難民、そして移民をも対象としています。国と地方、両方での統合を念頭に置いており、指標として統合の度合いを測るだけでなく、統合を進めるためにどのような施策が適しているのかといった統合政策の実施についても配慮されています。指標の項目にも、趣味や余暇時間の活動(Leisure)が新たに追加されるなど、エビデンスに基づいた改良がなされました。
 

新指標の4原則

(代)リンダ・モリス博士(左)とジェニー・フィリモア教授(右)

リンダ・モリス博士(左)とジェニー・フィリモア教授(右)

 新指標には統合についての4つの原則があります。統合は(1)多面的なもので、統合するまでの道筋は人それぞれであり、停滞・逆行もありうること、(2)多方向的で、難民と受け入れ社会の双方が新しい環境に合わせて変化すること、(3)難民と受け入れ社会双方の責任であること、そして(4)地域や時期、個人と言った特定の文脈を踏まえる必要があるということです。
 特定の文脈というのは、例えば統合戦略は国家レベルで策定されるものの、実際の統合は難民が住む地域で進むので、その地域の特色を考慮に入れる必要が出てきます。また、一口に難民と言っても多様であり、その人の性格やどのようなライフステージにあるのかという、それぞれの事情にも配慮が必要だということです。
  
 いずれの原則もこれまでの社会統合政策の検証から得たエビデンスに基づいており、検証からはまた、言語スキルや良好な社会的つながりが社会統合において重要な役割を果たすこと、紋切り型の統合策ではなくその難民当事者に合わせて設計された長期的な統合策が効果的であることも分かってきました。
 反対に機能しない統合策としては、難民や移民への支援が欠如していたり、統合が長期的で包括的・多面的なものだと十分に理解していなかったり、難民が必要なスキルを身に着ける前に労働市場に入れることなどが挙げられました。

日本での難民受け入れ

 セミナー後半は、セッション2「日本のこれまでの取り組みと今後の展望」と題して、明石純一准教授(筑波大学大学院)がモデレーターとなり、可部州彦研究員(明治学院大学教養教育センター)と人見泰弘准教授(武蔵大学)が発表、石川美絵子常務理事(日本国際社会事業団)がコメントを寄せました。
(代)明石純一准教授(左)と、石川美絵子常務理事(右)

明石純一准教授(左)と、石川美絵子常務理事(右)

 明石准教授は、日本では統合ではなく共生という表現が好まれるが、移民と受け入れ国の市民が互いに尊重して認め合うことが大切だという考え方は日英ともに共通すると述べ、「どうすれば社会統合が成功するのか、何をもって成功と言えるのか問題意識を持って議論を試みたい」としました。
(代)可部州彦研究員

可部州彦研究員

 第三国定住難民について報告した可部研究員は、日本政府が「統合」の定義を定めておらず、雇用と収入を確保するという経済的自立に重点を置いていること、また、社会統合の研究においても客観的な指標が重視されてきたと指摘しました。
 同研究員が、日本に定住する難民に、社会に受け入れられていると思うかどうか聞き取りを行ったところ、雇用と収入は確保できても、言葉や文化の違いなどから疎外感を抱いたり不公平な扱いを受けていると感じたりして、日本人との関わりを避けるようになった難民の姿が見えてきました。今後の統合について同研究員は「多様な視点を持って、受け入れ側と難民側、双方向での関係性作りが非常に重要になってくる」と話しました。
(代)人見泰弘准教授

人見泰弘准教授

 続いて人見准教授が、日本におけるインドシナ難民について報告しました。同准教授は、当財団の『難民受入政策の調査と提言』事業の一環として行った調査結果を引用し、定住難民の過半数が有職者であること、その中でも同胞の友人が多く豊かな社会関係資本を持つ人ほど就労率が高くなる傾向を示しました。また、流暢に会話ができる、新聞を読みこなせるなど、一定の日本語能力があると正規雇用の割合が高くなるとしました。調査では、「日本語を勉強したいが機会や時間がない」「(同胞の)知り合いばかりと関わっていると、日本語ができない」などの意見が出たとのことです。
 難民二世についての調査では、ベトナム系難民二世の高校在籍率が日本人の平均値とも大差なく、世代が進む中で社会統合が進んでいる様子が見られました。その背景として、難民一世を中心とした家族や、コミュニティーの支援があったこと、難民として法的地位が保証されていたことが影響しているのではないかと同准教授は推測しました。
 

多様で長期的な支援を

 現場での難民支援に携わってきた石川常務理事からは、難民としての地位が認められた後も、難民は数々の困難に遭うこと、そういう時に多様な視点を提供できる統合指標が役立つとコメントがありました。「難民当事者や政策の責任にせずに、停滞や逆行も含めて統合の過程であると捉え、関係者が互いに理解し合うような支援の在り方が重要なのではないか」と述べ、多様な視点で物事を捉え、長期的に取り組んでいく姿勢の重要さを訴えて話を結びました。
 なお、セミナーで引用、言及された当財団発行の資料については以下から御覧いただけます。
 
「難民受入政策の調査と提言」事業 調査報告書
 
「日本におけるよりよい第三国定住に向けて 提言書」

「難民の地域定住支援ガイドブック」

 

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