現在、国際秩序は大きな転換点を迎えています。ロシアによるウクライナ侵略の長期化、中国の急速な軍備増強、北朝鮮の核・ミサイル開発の進展、中東情勢の不安定化を受けて、わが国を取り巻く安全保障環境は、戦後最も厳しく複雑なものとなっています。戦争やパンデミックはグローバルなサプライチェーンの脆弱性を露呈させ、経済安全保障上の深刻な懸念を引き起こしています。さらに、人工知能(AI)、自律システム、量子、サイバー、宇宙などの「ゲーム・チェンジング・テクノロジー」が戦闘の様相を一変させる中、民生技術と軍事技術は不可分となっています。
こうした中、日本では長年にわたり、安全保障と科学技術・産業との連携が十分に進まず、産学官の技術力やイノベーションを国家安全保障へ結び付ける仕組みも十分とは言えませんでした。しかし、デュアルユース技術が国の安全保障能力や産業競争力を左右する時代においては、安全保障とイノベーションを相互に強化する好循環の構築が不可欠です。日本の優れたデュアルユース技術を国家安全保障に活かすとともに、安全保障上の厳しいニーズを科学技術と産業のイノベーションにつなげていくことが求められています。
こうした問題意識の下、公益財団法人笹川平和財団は2024年6月、防衛省および経済産業省の元政策立案者ならびに防衛産業に関する有識者等の参加を得て、「経済安全保障技術・産業力強化戦略研究会」を立ち上げました。以来、「
安全保障戦略のあり方研究」(2025年度)および「
安全保障戦略のあり方研究Ⅱ」(2026年度)事業の一環として、2026年9月まで計14回の研究会を開催し、防衛産業・技術開発及び経済安全保障に係る現状を分析するとともに、諸外国の先進事例も参照しながら、安全保障関連技術の推進と産業基盤の強化に必要な政策及び制度について検討を重ねて参りました。
この度、
政策提言「科学・技術・産業・安全保障のエコシステム構築ー日本の総力を挙げた国家安全保障の実現をー」を公表します。
本提言は、研究会での議論を踏まえ、安全保障関連技術とデュアルユース技術の間の垣根を取り払い、日本全体として官産学及び自衛隊の協力を実現する方策を示すことを目指したものです。「強い防衛」と「強い経済」の双方を底支えするものが「先端デュアルユース技術基盤」であり、この基盤を強化することこそが我が国の経済安全保障を確立し、政府の掲げる成長戦略の実現に大きく寄与すると考えます。
本提言が、政府、産業界及び学術界をはじめとする幅広い関係者の議論と行動につながる一助となれば幸いです。
<提言タイトル一覧>
はじめに
提言要旨
本提言の問題意識と提言の概要
第1部 デュアルユース技術
〇提言1 :「安全保障関連技術推進基本法」の制定及び
「安全保障関連デュアルユース技術推進基金」の設置
〇コラム:「最先端技術(CET)」だけでなく「基盤技術(FT)」も
―基盤的デュアルユース技術の空洞化という論点―
〇提言2 :安全保障デュアルユース技術開発実装のためのエコシステムの構築
〇提言3 :安全保障上重要なデュアルユース技術を実装・事業化につなぐ
知財・技術資産戦略―技術を持続的な能力に結実させる支援制度への転換―
〇コラム:上流からの一体設計―光学センサーの設計から知財・技術資産戦略まで―
〇提言4 :進化し続ける防衛装備品へ―ソフトウェア時代の産業技術基盤:
三者一体(MOSA・SBOM・RMF)とDevSecOps―
〇提言5 :安全保障に関連する機器・システムの調達先企業の選定に関する
ガバナンスルールの導入
第2部 防衛装備品
〇提言6 :緊急時における防衛装備品の優先的確保に係る施策
〇提言 7:有事における継戦能力確保のための取り組み
〇提言8 :防衛装備品の更なる移転推進のための施策
〇提言 9:部隊レベルのニーズを反映した新たな調達制度の導入
〇提言 10:シンクタンク等におけるセキュリティ管理システムの導入
第3部 官民連携
〇提言 11: 官民の研究者の交流の促進
〇提言 12 :SDA(宇宙領域把握)と天文学会の連携による
宇宙関連等学術データの安全保障への活用
<提言者一覧>
赤石 浩一 元科学技術・イノベーション推進事務局長 / 笹川平和財団上席フェロー
油木 清明 バウワーグループアジア(BGA)日本代表
磯部 晃一 元東部方面総監 / 元陸将
兼原 信克 笹川平和財団常務理事 / 元国家安全保障局次長
河上 康博 笹川平和財団 日米・安全保障研究ユニット 総括・交流グループ長 / 元海将補
土本 英樹 元防衛装備庁長官
西山 淳一 元三菱重工業株式会社 航空宇宙事業本部 副事業本部長
真部 朗 元防衛審議官
宗像 直子 元特許庁長官 / 笹川平和財団上席フェロー
渡辺 秀明 元防衛装備庁長官
※五十音順
<事務局>
河上 康博 笹川平和財団 総括・交流グループ長 兼 主任研究員 【事務局長兼務】
柴山 真里枝 笹川平和財団 総括・交流グループ 研究員
洞口 雅恵 笹川平和財団 総括・交流グループ 主任
※提言書本文は
こちらをご覧ください。