2025年以降の世界の紛争、国際危機グループ 理事長コンフォート・エロ氏
世界が直面しているグローバルな危機とは何か、そして日本にどのような影響を及ぼすのか。国際危機グループ理事長のコンフォート・エロ氏と笹川平和財団の西田一平太上席研究員がこのテーマについて掘り下げ、ヨーロッパと中東で進行中の紛争、米中対立の激化、そしてトランプ2.0、グローバル・サウスへの影響などについて語り合いました。
インタビュー要約:
―タイでの廃棄物処理の現状を説明してください。
<ウィジャーン氏> タイでは、年間2700万トンの廃棄物が発生しており、1日の量に換算するとおよそ7万トンとなります。その中から有効にリサイクルされるのは、たったの19パーセントです。総廃棄物の50パーセント以上は野積み状態で放置されており、そこからガスの発生による火災や水質汚染などの問題が出ており、危険・有害廃棄物の混入も危険視されています。廃棄物処理の適正化は現政府の喫緊の課題です。
我々自然資源環境省公害対策局は、内務省とともに、政策の立案や規制の実施を担当していますが、実際の廃棄物管理は地方自治体に任されています。タイには約7000の地方自治体がありますが、日本に比べてタイの地方自治体は規模が小さく、予算から技術、実施体制にいたるまで全てが不足しています。
政府と自治体は「Reduce(減らす)、reuse(再利用する)、recycle(リサイクル・再生利用する)」の3R政策を推進し、多岐にわたる取り組みを行っています。具体的にタイの学校では「ごみ銀行(Garbage Bank)」によって廃棄物の回収を進め、その廃棄物から再利用できるものは売って、利益を学校に還元するということも行っています。3R政策により、国内の全廃棄物量の5パーセント削減を目指していますが、依然として課題は山積しています
タイでは国民一人に換算すると、一日に1.1キロの廃棄物を出しています。しかし、自分たちが廃棄物を出している自覚がなく、「自分の裏庭以外なら(not in my backyard)」という言葉のように、廃棄物処理施設を忌避施設とみなし、その受け入れを嫌がるのです。東京にはたくさんの廃棄物の焼却炉がありますが、タイでは全国で3か所だけです。日本の各地域で廃棄物処理をどのように行っているのか、大変興味があります。
―日本の廃棄物処理の取り組みで印象に残ったことは?
<クワルンディー氏> タイ人は、ゴミを捨てたらそれを拾うのは政府の責任だと考えているのです。だからそのための、お金を払おうとはしません。日本は違います。日本の小さな町の例ですが、人々が10枚で40円のプラスチックの袋を買って食品ごみをその中に捨てていました。
日本で、ごみを分別して回収しているのが大変良いアイディアだと思いました。家庭でもスーパーマーケットでも、一人一人が自覚を持ってほぼ完璧に資源ごみを分けることができれば、廃棄物の適切な処理が実現できます。タイでも、国民の一人一人が責任を自覚し、家庭でのごみの分別をすることから始めなければなりません。
山形県長井市の「キッチンごみのたい肥化プロジェクト(レインボープラン)」はとてもよくできたシステムだと思いました。台所から出る有機物などの食品廃棄物や食物残滓を各家庭が町のゴミステーションに持ち寄り、集積された食品廃棄物を工場で堆肥化しています。堆肥は農家に配分され、有機堆肥を利用した農地できた収穫物にレインボ-プランのシールを貼って出荷し、野菜などは地域の学校給食に出されています。大変すばらしい取組で、この効率的で優れたシステムを可能にしているのが、地域住民の意識の高さと協力し合う姿勢だということも大変勉強になりました。
また、小学校の授業の中に環境教育が組み込まれていることに驚きました。日本では、ごみの分別に関する教育が正規のカリキュラムに入っており、東京、青海市の廃棄物処分場に大型バスに分乗して大勢の子供たちが見学に来て、現場をよく知る専門家が説明をしているのを見ました。タイの廃棄物処分場は子供が来るところではないと考えられていますから、見学の授業は考えられません。教育の現場から廃棄物処理の意識を高めていけたら良いと思いました。
―今回の視察の感想をお願いします。
<ウィジャーン氏> 長井市が推進しているレインボープランは、対象地域の約5,000世帯の住民が、徹底したゴミの分別回収をし、コミュニティのために、廃棄物の堆肥化利用に貢献していました。長井市で学んだことを農業国のタイでも実行できないかと考えています。他の地域でも、廃棄物の回収システムが非常に良いと思いました。廃棄物を細かく分別し、可燃ごみ、不燃ごみ、粗大ごみ、資源ごみなどに分け、それぞれ最終処分に至るまで、様々な経路をたどる日本のシステムが効率的に機能していました。栃木県の野木町では、食物残滓だけでなく、剪定ゴミも含めて堆肥化が進められていました。
また、栃木県の宇都宮市茂原ではゴミ発電を、東京都大田区の城南島公園では食品廃棄物のリサイクルによるバイオマス発電を視察しました。栃木県の那須塩原では最終処分場跡地を太陽光発電用地としての利用、日本の人達が立場の垣根を越えて、廃棄物の減量化やリサイクル、処分場の適正管理や有効利用を進めていることがよくわかりました。日本の経験についての学びを活かし、タイにおいて、どうすれば人々が生活環境の向上のために協力し合い、活動を進めて行けるのか、いかにして人々の意識を変えることができるのかを考えなければと強く意識しました。日本のやり方がそのままタイに当てはまるわけではありませんが、多くのヒントを得られたので、その実現に向け、知恵を絞りたいと思います。そのために、SPFや日本の皆さんと一緒に何かできないかと思っています。その意味では、本日開催予定のセミナーで、日本の専門家や実務家の方たちと更に議論を深めることができることを楽しみにしています。
<クワルンディー氏>
日本は産業廃棄物から家庭ごみにいたる廃棄物に関連し様々な経験を有しています。タイは高度成長期に技術の進歩のみを追求し環境に関して考える余裕がありませんでした。そして今、その代償として廃棄物の問題に頭を抱えています。日本の高度成長も同じ道を歩んできたと聞いています。。いま日本では廃棄物処理について様々なシステムを作り、日本各地で成果をあげています。
今回、日本の優れたシステムと技術を実際に見て、そこに関わる人達と議論できたことは本当にためになりました。ごみが堆肥になり、エネルギーになり、資源になる。有機堆肥について言えば、有機堆肥からできた野菜が食卓にのぼり、子供達の活力を作りつつ、食品廃棄物はまた堆肥となる。こうしたシステムを見て、日本では人と環境に優しい循環型の社会づくりがなされていると思いました。