中国経済セミナー登壇者インタビュー Vol.4 津上俊哉氏(日本国際問題研究所客員研究員、現代中国研究家)
笹川日中友好基金は、中国の米中新視角基金会(周志興主席)の協力を得て中国経済セミナーシリーズ(全3回、2021年12月~2022年2月)を開催しました。本セミナーのコメンテーターとしてご登壇頂いた日本国際問題研究所客員研究員、現代中国研究家の津上俊哉氏に中国の経済政策やその教訓等についてお話を伺いました。(2022年7月5日収録)
2019年9月、WMU食堂で開催された「ギャザリングオリエンテーション」のレセプションで、 WMU笹川奨学生に挨拶する工藤参与(中央)。右隣はクレオパトラWMU学長。
工藤栄介参与
――WMU笹川奨学生・フェローにはどのような方たちがいるのですか。卒業後はどういったところで活躍されているのでしょうか
水成氏 奨学金の応募条件として、卒業後自国の発展に貢献することが期待される公務員であること、というのがあります。出身組織は、日本の組織に例えると、海事関連では国土交通省海事局・港湾局のような海事・港湾を統括する組織、海上保安庁のような海難救助・密航密輸取締を行う組織、海技教育機構のような船員教育を行う組織、運輸安全委員会事務局の船舶部門のような海難原因を調査するような組織が挙げられます。現在では、海事関連だけではなく海洋関連や環境関連の組織、日本で言えば内閣府総合海洋政策推進事務局や環境省のような組織の出身者もいます。
ほぼ全ての奨学生がフェローとなって母国に戻ってからも、同じセクターで活躍しています。その一方で、学んだことをもとに自分が何をしたいか考え、新たな道に進む人たちもいます。自国の発展のためには国際交渉の場で活躍することが必要と考え、外務省への転職を考える人もいます。また別のケースでは、自国に足りないのは海の弁護士だと気が付き、司法試験を受けたいと報告してきたフェローもいました。
2019年の日本研修の一コマ。神戸港着岸中の練習船「日本丸」の前で記念撮影に納まるWMU笹川奨学生たち
――日本を知る良いきっかけになりますか
水成氏 これまで一度も日本に来たことがなかった奨学生を対象に、日本のことを学んでもらう研修プログラムはめずらしいと思っています。日本のことだけを知ればよいということではありませんが、日本の奨学金を受け取っていながら、日本のことを分からずに卒業して、その後どうやって日本とつながるのかという思いもあります。奨学生の皆さんには卒業後海事社会の要職に就いた時に、国際条約を検討するIMOなどの議論に参加することがあると思いますが、その時に日本を見たことがあるぞ、日本は面白い国だったと思いだしてもらうことは、決して損にはならないですし、欲を言えば親日になってもらいたいと思っています。
――実際に、彼らの反応はどうでしたか
水成氏 彼らは日本に来る前から日本研修をすごく楽しみにしています。自由時間に渋谷に行ってみたいなど、事前にリサーチもしているようです。日本研修後には「海事社会のことを知ることができて良かった」「時間に正確な日本のルールに合わせることが大変だったが、日本そのものの考え方や、どのように日本が動いているのかということがわかった」など、さまざまな意見が寄せられました。毎年、彼らの日本に対する造詣が深くなったと、評判がとてもいいです。
2019年の日本研修の最終日に行われたお別れレセプションで、満面の笑みを見せるWMU笹川奨学生と水成研究員(中央)
――2020年と2021年はコロナ感染症の影響で、日本研修は中止になりました
水成氏 残念なことに、2年連続でキャンセルになりました。そうした中でも今年は、WMUの講堂と日本財団をネットワークで結び、奨学生と笹川陽平・笹川平和財団名誉会長とのオンライン会議を10月に開催し、笹川名誉会長と一人ひとり話をする機会を設けることができました。
――コロナ禍におけるWMU笹川奨学事業の運営で苦慮、工夫されたことは
水成氏 WMU笹川奨学事業とは、世界中に海のことを相談できる仲間をつくること、いわゆるネットワークづくりだと思っています。信頼関係を築くには対面が一番ですが、コロナ禍で直接会えない中で、奨学生をフォローするためにはどうしたらよいか悩みました。
その一方で、コロナ禍だからこそ良かった面もあります。2020年に卒業する予定だったある奨学生が、家族の事情で帰国しなければならなくなりました。コロナ以前であれば、学業に復帰することは難しかったかもしれません。しかし、コロナ禍によって昨年からWMUで提供されたオンライン講義が母国から利用可能となり、2021年に無事卒業することができました。
水成剛研究員
WMU友の会ジャパンのウェブサイト
――最後に、WMU笹川奨学生・フェローの皆さんにメッセージを
工藤氏 ネットワークを頼りに他のフェローからパワーをもらって、自分達の親友と後輩にそのパワーを与えていって欲しい。WMU笹川フェローはWMU以外にも国際海事法研究所(IMLI)などの卒業生と日本財団を介して繋がっております。更に笹川フェローの垣根をこえて、世界のために尽くしてほしいと願っています。
水成氏 われわれの活動は草の根活動だと思っています。言わば将来大きくなるかもしれない種を植えているようなものです。全部が全部大きな木にならないのかもしれませんが、大木になった時に、大木と大木が会話しているのが、実はWMU笹川フェローなんだという話を聞けることを、今から楽しみにしています。