2025年以降の世界の紛争、国際危機グループ 理事長コンフォート・エロ氏
世界が直面しているグローバルな危機とは何か、そして日本にどのような影響を及ぼすのか。国際危機グループ理事長のコンフォート・エロ氏と笹川平和財団の西田一平太上席研究員がこのテーマについて掘り下げ、ヨーロッパと中東で進行中の紛争、米中対立の激化、そしてトランプ2.0、グローバル・サウスへの影響などについて語り合いました。
2021年10月15日、ソマリア欧州連合海軍部隊アタランタ作戦の軍艦と対潜哨戒機および日本の海上自衛隊船舶がジブチ港へ共同寄港しました
ジブチ港への日EU共同寄港は、インド太平洋地域のパートナーとの協力に向けたEUの広範な取り組みの一環です
今後の活動の可能性についてお話しますと、私たちは既に海洋安全保障の分野で多くの活動を実施していますが、将来こうした活動により多くの投資をすることになると思います。 こうした活動は、広範なインド太平洋地域における能力強化と海洋状況の認識という観点から、日本との密接な協力が期待される領域でもあります。
EUでは最近、「協調的海洋プレゼンス(Coordinated Maritime Presences)」と呼ばれる新たな概念を構築しています。これは、EU加盟国海軍の艦船・哨戒機などによる哨戒活動の調整と中央での情報共有の仕組みで、最初のパイロット実施はギニア湾で開始されました。加盟国の一部は、新たな海洋関心領域の策定にも関心を示しており、インド太平洋地域も含まれるかもしれません。現在のところ何も発表されてはいませんが、この件は今後数カ月の間に議論されるかもしれません。
西田氏 日本とEUは、40以上のターゲットアジェンダを網羅する広範な活動を協力して行うことができる特別政治協定(Special Political Agreement, SPA)を締結しています。このうちの主要な課題の一つは危機管理ですが、これは、コソボ紛争時に国際文民事務所の副代表を務められたウェストンさんの専門分野でもあります。この分野における日本との協力に関するEUの期待とはどのようなものでしょうか。また、進展を重視するにあたっての共通アジェンダまたは課題にはどのようなものがありますか。
ウェストン氏 EUによる共通安全保障防衛政策(Common Security and Defence Policy , CSDP)および危機管理ミッションと活動は、当初からパートナー諸国に開かれています。私が西バルカン諸国で文民による危機管理のミッションに従事していた2004年には、多くのパートナー国がこれらの活動に要員を派遣していました。EUにとっては、平和と安定に関するアジェンダを支援し、危機的状況の改善に向けて協力することのできるパートナーの存在は重要です。
もちろん最初のパートナーは国連です。EUのミッションの大部分は国連PKOまたは特別政治ミッションと並行して展開され、また国連のマンデート(安保理決議)を踏まえ実施されることがあります。EUによる国連とのこうしたパートナーシップについて、日本やインド太平洋の各国の理解を得ることは非常に重要です。
EUには現在、域外パートナーと19の枠組み参加協定(Framework Participation Agreements)を締結しています。これらの協定は幾分専門的な協定であり、拠出金の問題、指揮命令系統、機微情報の提供および第三国による要員派遣に必要となるその他の領域について検討するための法的基盤を提供します。日本が今後、軍事あるいは文民の活動を問わずこの種の協定に関心を示す場合、EUは大いに歓迎すると思います。
自衛隊の海外派遣については制約があることは理解していますが、たとえば他国軍の訓練や能力構築支援など、国連PKOへの取り組みに対する支援として日本が既に実施している分野において、具体的な協力案件を検討することは可能だと思います。今後検討を要する領域の一つは、日本がEUの非軍事・文民ミッションに対して警察の専門家、法律の専門家、モニタリング要員等の派遣に関心を持つかどうかというものです。
2021年5月11日、EU、日本、ジブチは、アデン湾で共同海軍軍事演習を行いました
EUと日本の海軍間協力に関しましては、私たちはすでにアタランタ作戦の一環として実践的な取り組みを目にしてきました。アタランタ作戦は海賊行為の抑止および輸送船舶の保護に向けたEUの一大活動です。EUと日本は昨年10月にジブチで共同海軍演習を成功裏に行い、ジブチ港へ共同寄港しました。また、今年5月には日本、EU、ジブチによる海賊対処共同演習を行っています。私たちがこうした協力関係を有していることは極めて重要であり、この種の実践的協力に引き続き共に取り組めることを切に願っています。
私たちはASEANの支援に向けた地域活動にも注目しており、EUの政策手段やプロジェクトを通じて日本とより高次の協力を期待します。
加えて、EUは安全保障および防衛に関して日本と定期的に協議を行っていますが、こうした協議は十二分に機能していると思います。私が前回来日してからほぼ二年が経ちますが、この協議はパンデミック中も継続してきました。私たちが深めてきた交流によって、学識者らによる専門的な交流の機会が儲けられています。
枠組み参加協定につきましては、日本に対しては常に門戸を開いているだけでなく、アドホックな参加または単発での参加という選択肢もあります。EUが日本と協力して取り組める分野は多岐にわたっており、このプロジェクトが将来に向けてさまざまな可能性を広げていくきっかけとなれば幸いです。