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No.0073

欧州対外行動庁(EEAS)のアリソン・ウェストン安保防衛政策第二課長(パートナーシップ、NATOタスクフォース)との対談

欧州対外行動庁(EEAS)パートナーシップおよびNATOタスクフォース課長 アリソン・ウェストン氏との対談

インド太平洋地域は、近年、欧州連合(EU)が関心を寄せる新たな重要地域となっており、関心の対象は経済・政治・安全保障領域に及んでいます。2021年4月に欧州理事会が採択した「インド太平洋地域における協力のためのEU戦略」をはじめ、EUによる最近の外交政策文書は、この地域において志を同じくするパートナーと共に積極的な役割を果たし、高まる緊張や世界規模の複雑な課題に対処していくというEUのコミットメントを強調しています。こうしたEUのインド太平洋への関わりについて理解を深めるべく、笹川平和財団の西田一平太主任研究員が欧州対外行動庁(EEAS)のアリソン・ウェストン安保防衛政策第二課長(パートナーシップ、NATOタスクフォース)と対談しました。ウェストン氏はオンラインの対話で、近く発表される「インド太平洋戦略に関する共同コミュニケーション」をプレビューし、地域における安全保障上のパートナーとしてのEUの役割について述べ、今後日本とEUが協力し得る領域について提案しました。(共同コミュニケーションは、2021年9月16日に発表されました)。
 
 西田氏 インド太平洋地域におけるEUと日本の関わりについて解説するにあたり、このような素晴らしいゲストと対談できることを光栄に思います。最初に、アジアにおけるEUの存在についてお伺いさせてください。グローバルなパートナーシップを統括されるお立場において、アジアにおける安全保障上のパートナーとしてのEUの現在の役割とはどのようなものか、また、EUとアジアのパートナーシップをどのように構想しているのかお聞かせいただけますか。

 ウェストン氏  日本の方々に広くお話させていただく機会を持てたことをたいへん嬉しく思います。今回のディスカッションを開始するにあたり、EUとはどのような活動主体なのかを理解していただくことが重要です。EUの基本的側面について申し上げますと、欧州連合条約に記載されているとおり、国際の平和と安定への支援を目指すことを信条としています。多国間主義やルールに基づく国際秩序は、私たちの存在および活動の根底を成すものです。
 EUの安全保障と繁栄はインド太平洋地域と密接な関係があります。インド太平洋地域が占める人口の割合は極めて大きく、世界のGDPの約60%を占めているほか、EUの対外貿易の三分の一以上を占めています。インド太平洋地域で起きていることは私たちにとって重要であり、安全保障、繁栄、グローバルシステム全体の安定に影響を与えています。
 インド太平洋地域にみられる特徴として、政治的緊張関係、軍事費の増加、地域の包括的な安全保障の枠組みが不在であることに対する懸念を挙げることができます。インド太平洋地域はEUの繁栄と安全保障に直接影響を及ぼす戦略的な関心地域であり、欧州での政策議論においてインド太平洋地域がこれまで以上に重要視されている理由はここにあると思います。
 EUは安全保障、防衛、外交および経済的側面で非常に広範なツールを保持しており、27のEU加盟国の利益と能力も結集させています。また、加盟国の多くはインド太平洋地域で非常に積極的に活動しています。
 私たちは共通価値と共通利益に基づきこの地域でのパートナーシップを構築したいと考えています。日本のようなパートナーは、ルールに基づくグローバルな国際秩序、開かれた海上交通路の保全、自由貿易の重要性について、EUおよびEU加盟国と見解を共有しています。同時に、私たちは見解に多少のずれはあっても共通利益を見出すことのできるパートナーとも協力する意向です。
 また、私たちは既にインド太平洋地域戦略を展開しているパートナーとも協力関係を構築していく所存です。日本はEUに先んじて15年ほど前にいち早く「インド太平洋地域」の政治理念を構築しました。2021年5月に開催された日EU定期首脳協議で首脳らが述べたように、インド太平洋地域の課題に対処するにあたっての協力の重要性は高まる一方です。首脳らのこうした発言は、この地域で志を同じくする日本のような国々と協調していこうというEUの非常に固い決意を示すものです。
 
2021年10月15日、ソマリア欧州連合海軍部隊アタランタ作戦の軍艦と対潜哨戒機および日本の海上自衛隊船舶がジブチ港へ共同寄港しました

2021年10月15日、ソマリア欧州連合海軍部隊アタランタ作戦の軍艦と対潜哨戒機および日本の海上自衛隊船舶がジブチ港へ共同寄港しました
 

 西田氏  このパートナーシップに関し、EUは「アジアにおける欧州連合とアジアの安全保障協力の強化(Enhanced Security Cooperation in and with Asia, ESIWA)」と呼ばれるプログラムを立ち上げました。このプログラムは比較的新しいもので、日本ではまだ広く知られていません。このプログラムの目的と、日本にとっての重要性についてお話​しいただけますか。
 
 ウェストン氏  ESIWAは、インド太平洋地域の国々とEUが既に行っている政策対話を踏まえ、EUが保有する政策手段の一部を用いて、より具体的で実践的な協力を行うというEUの初の試みを含むパイロット・プロジェクトです。同時に、ESIWAプロジェクトは、国際的なアクターとしてのEU、EUの政策、EUによる活動、そして日本のような国々にとってどのようなパートナーであるか、についての理解を深めてもらう手段として重要です。
 現在のESIWAのパートナー国は日本、インド、インドネシア、韓国、シンガポール、ベトナムの6カ国であり、危機管理、サイバーセキュリティ、国際テロ対策、海洋安全保障を含む4つの領域を対象としています。ESIWAの4つの領域は、多様な政策的関心を有しEUとの関係の度合いも異なる各パートナー国との関係構築に柔軟性を与えます。
 新型コロナウィルス感染症の影響による各種の制限はプロジェクトの実施を難しくしていますが、インドネシアとは国際テロ対策やサイバーセキュリティ領域での教訓・知見の共有や能力構築支援を行い、日本とは安全保障の課題として重要性が増している戦略的コミュニケーションやディスインフォメーション(偽情報)について協議をしています。
 ベトナムでは、同国軍による国連平和維持活動(国連PKO)の訓練を支援するためEUの軍事専門家がハノイで業務に従事しています。同国での日本の存在感は大きく、EUの担当官は日本政府の専門家との協議を通じて、より効果的かつ補完的な協力領域を特定する作業を行っています。また、EUはインドネシアにも海軍専門家を配置しています。この専門家も同様の仕事をしています。
 私たちは東アフリカや東南アジアの海洋安全保障における能力強化といった課題に関し、日本や地域のパートナーと共同していきたいと考えており、その他の地域的課題にも注目していきたいと強く思っています。日本との協力においては、海洋安全保障がより一層重要な領域となると考えています。
 
 西田氏  EU独自の側面の一つは、EUが政治的、経済的、軍事的ツールを利用できるというものですが、ご説明いただいたようにESIWAにおいてEUは地域の安全保障に大きな影響を与えるべく、また、他国とのパートナーシップを構築すべく、こうした要素を統合しています。ESIWA活動と近く発表されるEUインド太平洋戦略との関係とはどのようなものでしょうか。ESIWAはすでにこの戦略の一部となっているのでしょうか、あるいはEUと各国間の別個の構成要素なのでしょうか。
 
 ウェストン氏 4月に発表された文書から、新たなEUインド太平洋戦略の主要な政策の方向性を確認することができます。安全保障と防衛の側面においては、インド太平洋地域に対するEUの戦略的関心は、この領域におけるEUの全般的な意欲の高まりを反映しており、これは2016年の「EU外交・安全保障政策のためのグローバル戦略」に遡ります。
 私たちはEUが独自の防衛構想や施策を推し進める姿を目にしてきました。この行動は、EUがより効果的な国際政治の主体となり、活動能力を強化し、この地域により深くかかわりたいという意欲の表れです。こうした意欲の高まりを念頭に置き、今後のロードマップを示すことになる共同コミュニケーションに期待したいと思います。
 ESIWAプロジェクトはこの広範なアジェンダを進展させるツールです。私たちは、EUとパートナー間の知識や理解の構築に投資する必要があるほか、新たなプロジェクトや活動、具体的な協力案件も特定する必要があります。ESIWAは、こうした交流や経験を深め、パートナーと一層深い関わりを持つための有効な一歩といえましょう。
 
ジブチ港への日EU共同寄港は、インド太平洋地域のパートナーとの協力に向けたEUの広範な取り組みの一環です

ジブチ港への日EU共同寄港は、インド太平洋地域のパートナーとの協力に向けたEUの広範な取り組みの一環です
 

 今後の活動の可能性についてお話しますと、私たちは既に海洋安全保障の分野で多くの活動を実施していますが、将来こうした活動により多くの投資をすることになると思います。 こうした活動は、広範なインド太平洋地域における能力強化と海洋状況の認識という観点から、日本との密接な協力が期待される領域でもあります。
 EUでは最近、「協調的海洋プレゼンス(Coordinated Maritime Presences)」と呼ばれる新たな概念を構築しています。これは、EU加盟国海軍の艦船・哨戒機などによる哨戒活動の調整と中央での情報共有の仕組みで、最初のパイロット実施はギニア湾で開始されました。加盟国の一部は、新たな海洋関心領域の策定にも関心を示しており、インド太平洋地域も含まれるかもしれません。現在のところ何も発表されてはいませんが、この件は今後数カ月の間に議論されるかもしれません。
 
 西田氏 日本とEUは、40以上のターゲットアジェンダを網羅する広範な活動を協力して行うことができる特別政治協定(Special Political Agreement, SPA)を締結しています。このうちの主要な課題の一つは危機管理ですが、これは、コソボ紛争時に国際文民事務所の副代表を務められたウェストンさんの専門分野でもあります。この分野における日本との協力に関するEUの期待とはどのようなものでしょうか。また、進展を重視するにあたっての共通アジェンダまたは課題にはどのようなものがありますか。
 
 ウェストン氏 EUによる共通安全保障防衛政策(Common Security and Defence Policy , CSDP)および危機管理ミッションと活動は、当初からパートナー諸国に開かれています。私が西バルカン諸国で文民による危機管理のミッションに従事していた2004年には、多くのパートナー国がこれらの活動に要員を派遣していました。EUにとっては、平和と安定に関するアジェンダを支援し、危機的状況の改善に向けて協力することのできるパートナーの存在は重要です。
 もちろん最初のパートナーは国連です。EUのミッションの大部分は国連PKOまたは特別政治ミッションと並行して展開され、また国連のマンデート(安保理決議)を踏まえ実施されることがあります。EUによる国連とのこうしたパートナーシップについて、日本やインド太平洋の各国の理解を得ることは非常に重要です。
 EUには現在、域外パートナーと19の枠組み参加協定(Framework Participation Agreements)を締結しています。これらの協定は幾分専門的な協定であり、拠出金の問題、指揮命令系統、機微情報の提供および第三国による要員派遣に必要となるその他の領域について検討するための法的基盤を提供します。日本が今後、軍事あるいは文民の活動を問わずこの種の協定に関心を示す場合、EUは大いに歓迎すると思います。
 自衛隊の海外派遣については制約があることは理解していますが、たとえば他国軍の訓練や能力構築支援など、国連PKOへの取り組みに対する支援として日本が既に実施している分野において、具体的な協力案件を検討することは可能だと思います。今後検討を要する領域の一つは、日本がEUの非軍事・文民ミッションに対して警察の専門家、法律の専門家、モニタリング要員等の派遣に関心を持つかどうかというものです。
 

2021年5月11日、EU、日本、ジブチは、アデン湾で共同海軍軍事演習を行いました
2021年5月11日、EU、日本、ジブチは、アデン湾で共同海軍軍事演習を行いました
 

  EUと日本の海軍間協力に関しましては、私たちはすでにアタランタ作戦の一環として実践的な取り組みを目にしてきました。アタランタ作戦は海賊行為の抑止および輸送船舶の保護に向けたEUの一大活動です。EUと日本は昨年10月にジブチで共同海軍演習を成功裏に行い、ジブチ港へ共同寄港しました。また、今年5月には日本、EU、ジブチによる海賊対処共同演習を行っています。私たちがこうした協力関係を有していることは極めて重要であり、この種の実践的協力に引き続き共に取り組めることを切に願っています。
 私たちはASEANの支援に向けた地域活動にも注目しており、EUの政策手段やプロジェクトを通じて日本とより高次の協力を期待します。
 加えて、EUは安全保障および防衛に関して日本と定期的に協議を行っていますが、こうした協議は十二分に機能していると思います。私が前回来日してからほぼ二年が経ちますが、この協議はパンデミック中も継続してきました。私たちが深めてきた交流によって、学識者らによる専門的な交流の機会が儲けられています。
 枠組み参加協定につきましては、日本に対しては常に門戸を開いているだけでなく、アドホックな参加または単発での参加という選択肢もあります。EUが日本と協力して取り組める分野は多岐にわたっており、このプロジェクトが将来に向けてさまざまな可能性を広げていくきっかけとなれば幸いです。
 

アリソン・ウェストン氏 略歴
欧州対外行動庁(EEAS)安保防衛政策第二課長(パートナーシップ、NATOタスクフォース)
 
EEAS安全保障防衛政策部のパートナーシップおよびNATOタスクフォース課長として、安全保障と防衛の分野における、国連・NATO・アフリカ連合などの国際機構ならびに域外国との協力を担当。EUの危機管理活動において豊富な経験を持ち、共通安全保障防衛政策の展開に早い段階から関与した。文民による危機管理ミッションの計画・実施にも数多く従事した経験がある。2008年から2010年にかけては、EUコソボ特別代表ピーター・フェイス(Pieter Feith)氏が主導するEU特別代表事務所および国際文民事務所の事務所長を担当した。また、2018年から2019年にかけて、欧州委員会において、キング(Julian King)コミッショナーの権限下において、安全保障連合(Security Union)タスクフォースの枠組みに従事している。伊フローレンス(フィレンツェ)の欧州大学院にて博士号取得(政治社会学)。現在は欧州大学院大学の客員教授を兼任する。

西田一平太(にしだ いっぺいた)氏 略歴
笹川平和財団 安全保障研究グループ主任研究員

英ロンドン政治経済学院大学院修了(開発学修士)。民間企業勤務を経て、国際NGO「国境なき医師団」にて南スーダン・リベリアといった紛争地で活動。帰国後、内閣府平和協力本部事務局研究員。東京財団研究員(2011年~16年)を経て2016年10月、笹川平和財団に移籍。2018年6月より現職。対外援助と安全保障協力、脆弱国支援等に関する政策研究を行う。

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