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No.0067

ブルーエコノミーで環境・経済・社会の
サステナブルな発展を
/渡邉敦主任研究員
(笹川平和財団海洋政策研究所)インタビュー

2019年11月11日

 「世界的にはブルーエコノミーが注目を浴びていますが、日本ではまだまだ知られていないんです」と語る、海洋政策研究所の渡邉敦(わたなべ・あつし)主任研究員。これからも人類が地球で生き延びていくための鍵であるとも言われるブルーエコノミーの実情と課題について聞きました。


世界で注目を浴びるブルーエコノミー
――「ブルーエコノミー」とは具体的には何を指すのでしょう

渡邉:海洋産業とも言い換えることができるかもしれません。しかし、海を守りながら利用することで、経済や社会全体をサステナブルに発展させていこうというという考え方がベースにあるのがブルーエコノミーの特徴です。

 ブルーエコノミーをベースとした「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベルパネル」には、欧州やアフリカを中心に日本も加盟しています。海は、食料や資源の供給、そして限りある化石燃料に頼らないエネルギーの供給など、持続可能で循環型の社会を実現する鍵となるものです。市場も着実に成長していて、2010年の1.5兆ドルから2030年には3兆ドルに倍増するとOECDが予測しています。
(キャプション)海は、世界の食料や経済を支えてきた

海は、世界の食料や経済を支えてきた

――具体的に海洋産業とは
渡邉:
昔からあるもので言えば、漁業や養殖業などの水産業や海運・造船です。近年注目を集めている海洋観光や、海洋再生可能エネルギーなどの新しい産業も含まれます。

 海は、世界中の人々の食や経済を支えてきました。ですが、従来のように経済的利益だけを追い求める海の利用の仕方は、海洋資源の乱獲や環境汚染、気候変動にまでつながってしまい、持続可能とは言えません。
 

――持続可能な形で海洋産業を振興するにはどうすればいいのでしょうか
渡邉:
海洋に関わる各産業が環境や資源に与える影響を抑え、必要に応じて環境を保全・再生しながら経済性を追求し、その結果、安全で循環型の社会が実現されることが、ブルーエコノミーのゴールだと考えています。

 今話題のSDGs(持続可能な開発目標)で言えば、目標14「海の豊かさを守」りながら、同時に他のSDGsの推進につながるような海洋産業の在り方が、ブルーエコノミーのあるべき姿です。
 
(キャプション)岡山県備前市日生町のカキ筏。同町はブルーエコノミーで地域を活性化している

岡山県備前市日生町のカキ筏。同町はブルーエコノミーで地域を活性化している

――ブルーエコノミーが広がるといいですね。普及に向けた課題はありますか
渡邉:海洋産業は多岐に渡ります。それぞれ、規模や海の利用法が大きく異なり、関係する行政機関や民間の団体など、細かく分かれています。ブルーエコノミーを成功させるには、関係セクターを横断する調整と協力が必要です。

 また、気候変動や自然災害、世界政治や経済といった外的要因にも左右されるため、リスクに備えながら長期的に取り組む意識も大切です。海洋だけの話に限りませんが、短期で結果が出るというわけにはなかなか行きません。
 
 
ブルーエコノミーが
地域全体を活性化する
――ブルーエコノミーの成功例にはどういったものがあるのでしょうか

渡邉:いろいろな成功例がありますが、日本国内で言えば、岡山県の備前市日生町がアマモという海草の再生を通して、地域社会の活性化に成功しました。
 
(キャプション)北半球で広く見られる海草の「アマモ」

北半球で広く見られる海草の「アマモ」

 日生町では、昔は海中に広大なアマモ場が広がっていました。アマモ場というのは、アマモが密集して生えている場所で、アマモが隠れ場になることから魚など海の生き物が集まってきます。

 同町のアマモ場は、水質悪化や浅瀬の埋め立てなどで1980年頃にはほとんど見られなくなってしまいました。それによって獲れるものが減ったり変わったりしたことに危機感を覚えた地元の漁業者が、アマモの再生に取り組み始めました。始めはなかなかうまく行きませんでしたが、県職員や大学研究者などの協力により、20年ほどでアマモが増え始め、現在では最盛時面積の約4割まで回復したと見られています。

 今ではアマモ再生が地域の学校カリキュラムにも取り入れられています。中高生がアマモの再生活動について漁業者に聞き取り、それをまとめて発表するのですが、これは漁業者が自分たちの仕事に誇りを持つことにもつながっています。
 
(キャプション)漁業者にインタビューする中学生。漁協と学校の地域協力にもつながる

漁業者にインタビューする中学生。漁協と学校の地域協力にもつながる

 さらに備前市が、「備前市里海里山ブランド推進協議会 with ICM」というプロジェクトを立ち上げました。同プロジェクトは、日生の海のみでなく山々まで含めて、農海産物からエコツアーなど、さまざまな地域資源のブランド化を推進しています。その成果もあり、今では国内外からの視察が同町を訪れていて、特に浅瀬の生態系再生に高い関心を持つ中東地域からの関心が高いそうです。


――セクターを超えて協力や活動が広がっていったのですね
渡邉:そうですね。多くの例を見ていますが、横断的な協力ができるかどうかが成功の可否を分けるポイントだと言えます。そして日生町では、すぐに結果が出なくても諦めず、30年という長い間工夫を続けてこられた地元の方々の熱意があることが大きいですね。

 
成功モデルを共有することで
ブルーエコノミーを広げていきたい
(キャプション)ブルーエコノミーへの関心が高まりつつあるクウェートで講演

ブルーエコノミーへの関心が高まりつつあるクウェートで講演

――渡邉さんの研究について教えてください
渡邉:
ブルーエコノミーを広げるため、成功のヒントになる事例を集めています。自然条件や社会環境が異なる各地で成功事例を集め、なぜ成功したのか、その成功モデルは他の地域にも応用可能なのか、課題は何か、といったことを分析します。 

 対象地域は国内だけでなく、アフリカや太平洋島しょ国、中東等でも、各地のブルーエコノミーの現状把握と推進のため調査・分析をしています。

 ブルーエコノミーの成功には共通点が見られます。地域の伝統的な知識や産業を基に、新しい技術や考え方を取り入れることで、今までにはなかった産業や資源などの循環ができるというケースが多い。先に挙げた備前市の例では、元々あった漁業が核となり、そこに新たにアマモ再生技術が加わることで、新たな産業やサービスが立ち上がりました。

 
――成功例などの研究成果を、まとめて発表する予定はありますか
渡邊:2020年にポルトガルで開かれる国連海洋会議で発表する予定です。その前後には、一般の方にも見ていただきやすい形で、冊子などにまとめたいと思っています。財団のサイトでも告知をしていく予定です。
(聞き手=特任調査役 湯通堂綾子)
渡邉敦(わたなべ・あつし)主任研究員 略歴
2004年、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了(理学博士)。2004年~2008年、名古屋大学大学院環境学研究科で博士研究員。海洋によるCO2吸収の季節・空間変動を調査。2008年~2018年、東京工業大学大学院情報理工学研究科等で助教。気候変動や養殖業、陸域での人間活動が沿岸生態系に与える影響評価を行ってきた。2018年より笹川平和財団海洋政策研究所 主任研究員。

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